虐待死とDVの悪循環の悲しさ。私たちに何ができるだろう。野田市の事件に思うこと
千葉県野田市で、小学校四年生の女の子が自宅浴室で死亡した事件。女の子は学校で取られたアンケートに
「お父さんにぼう力を受けています」「先生、どうにかできませんか」
とSOSを送ったのに、公的機関は適切な対応ができず、教育委員会に至ってはアンケートのコピーを父親に見せる等したことが明らかになっています。
さらに衝撃を与えたのは、逮捕された母親も、父親からのDVを訴えていたと報じられていたことです。
夫の暴力とその恐怖によって家庭が支配され、夫婦間の暴力と子どもへの虐待がコインの両面のような関係になり、最も弱い子どもが犠牲になる。
何度いたたまれない、悲しいことでしょうか。
しかし、これは決して極端な話ではありません。私が手掛けてきたDV事件も一歩間違えたらこうなっていただろう、と思い、背筋が凍る思いがしました。
こうした悲劇の萌芽は実は多くの家庭が抱えている。だからこそ、この事件が突き付けた課題は重いと言えます。
DV、その被害は日本では深刻です。
内閣府の調査によれば、配偶者から「身体的暴行」「心理的攻撃」「経済的圧迫」「性的強要」のいずれかの被害にあった女性は30%を越え、そのうち身体的暴行を受けた女性は約20%とされています。男性が配偶者からの暴力にあうケースも無視できません。
「なぜDVから逃げ出さないの?」と疑問に思う人もいるかもしれません。
しかしDVが始まると多くの女性は驚きや恐怖から身動きが取れなくなりがちです。人格を否定する暴言を浴びて、自分を価値のない人間だと思いこまされ、この人といるしか道がない、絶対に離婚はできないと信じ込まされます。
DVにも波があり、嵐が収まれば優しい時も多いので、翻弄され、
「共依存」
という関係に陥ることがしばしばです。
やがて、被害者自身が、暴力を周囲にもひた隠しにして、人間関係の殻に閉じこもり、益々支配されるようになります。
私が手掛けるDV事件のなかには半年間足らずで完全に洗脳されてしまった女性もいるほど、DVの猛威は深刻です。
そしてDV=力で家庭を支配する者が暴力の矛先を子どもに向けることは自然なことであり、被害者である女性は共犯者になってしまうのです。DVのストレスから母親が虐待を止められなくなるケースもあります。
そして、 「虐待の連鎖」
というように、暴力を間近に見て育った子どもは自分の家族に暴力をふるうようになる。その影響の大きさを考えると、家庭内のDVは決して放置できない深刻な問題です。
DVや虐待の悲劇をどうしたら防げるか、国は明確な対策に乗り出すべきです。
まず、周囲が手遅れにならないうちに介入し、DVをする配偶者から引き離すことが大切です。
DVはなかなか治りませんし「我慢しろ」と言うのは最悪の結果を生みます。
特に、最初の子が生まれる前後でDVは深刻化しますので、周囲がよく注意して話を聞いてほしいと願います。
DVは離婚の原因として認められ、最近は「保護命令」という制度で被害者が守られます。
一日も早く暴力に支配される家庭から「逃げる」ことを促してほしいです。
逃げるは恥だが役に立つ、といいますが、恥ですらありません。
困難を乗り越えようとする我慢強い女性、「彼を幸せにしたい」と思い優しい女性に限って深入りして、逃げられなくなりますので、本当に注意してあげてほしいです。
若い人たちの教育も大切です。
DVの危険な性質を理解して、交際相手による暴力や暴言を決して許さないし見過ごさない、DVの兆候があれば交際しない、早めに別れるべきだとしっかり教える必要があります。
そして、親しい人~家族に決して暴力をふるってはならないという非暴力の教育を小学校から大学まで、徹底する。
児童虐待の悲劇をなくすためには、「今ここにある危機」への対応とともに、芽のうちから摘み取る努力が何よりも必要です。