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2017年12月

2017年12月31日 (日)

薬物使用の性犯罪 被害者の証拠保全を指示 警察庁

こちら、とても重要な動きです。
最近、レイプドラッグがらみと思われる性犯罪の不起訴が相次ぎ、泣き寝入り社会ということを若い女性たちに植え付ける現実に心が痛みます。
そして、伊藤詩織さんのブラックボックスは、日本の性犯罪被害に対する処遇があまりにもひどいということをあらためて日本社会がかみしめる契機となりました。少しずつですが、何かが進んでいるようです。

これが全国に浸透するのか、それが今後の課題です。

薬物使用の性犯罪 被害者の証拠保全を指示 警察庁
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20171229/k10011274871000.html

警察庁は、性的な暴行を受けた事件で薬物の使用が疑われる場合には、被害者の同意を得たうえですみやかに血液や尿を採取して鑑定し、証拠を保全するとともに、睡眠薬などは早ければ数時間で体から排出されるため、正式な被害届が出される前でも適切な捜査を行うよう、全国の警察に指示しました。 また、夜間や休日に被害を訴えるケースも多いとして、性犯罪を担当する部署だけでなくすべての警察官がきちんと対応できるよう、指導や教育を充実させることを求めています。 性的な暴行を受けた人は、警察より前に医療機関や支援団体などに相談することも多く、警察庁は関係する機関との連携についても強化していくことにしています。


#Metoo 声をあげられる社会に。

先日、明治大学のTEDでお話をする機会がありました。
その内容をご紹介させていただきます。
今年は#Metooのムーブメントが起きた記念すべき一年でした。社会で押さえつけられてきた声が沈黙を破って外に出てきた。声をあげた人が取り残されたり、傷ついたりしない社会、一緒に社会を生きやすくするように共に歩める社会をつくっていきたい。そう思います。

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こんにちは。弁護士の伊藤和子です。
私は2006年に日本から国境を超えて活動する国際人権NGOヒューマンライツ・ナウを立ち上げて10年以上活動をしています。
人権とは何だと思いますか。私は、人が自分らしく尊厳を持って生きられる権利だと理解しています。ところが、多くの人が人権を踏みにじられています。
私たちの活動の中核は、深刻な人権侵害にあいながら、声をあげられない人たちに代わって声をあげること、そして解決を求めることにあります。
なぜそうした活動が必要になるのでしょう。人権侵害は多くの場合、力の強い人、権力のある人から、力の弱い人、抵抗できなさそうな人に向けられます。被害にあった人は被害によっていっそう無力にさせられ、声をあげられない状況に置かれるのです。こうして人権侵害の多くはなかったことにされ、闇のなかで続いていく、だから声をあげることを助ける必要があるのです。

みなさんは#Me too のムーブメントをご存知ですか。

今年10月、アメリカのセレブ女優達が次々と、ハリウッドの大物プロデューサーから受けた性的暴行やセクハラを受けた体験を告発したのです。1990年代から隠されていた性被害の数々が一気に白日の下にさらされたのです。
そして10月15日頃、被害者のひとりである女優のアリッサ・ミラノさんがTwitterで女性たちに、性暴力の深刻さを示すために”MeTooのハッシュタグをつけて性的な被害の経験を語ろうと呼びかけました。すると、全米で、翌日には50万回以上のツイートがこれら呼応し、全米、そして世界中でも、私も被害にあった、という”MeTooのムーブメントが広がりました。ヨーロッパでは、政治家たちまで被害をカミングアウト、性暴力をもうこれ以上許さない、という声が高まっています。
では日本はどうでしょう。まだそれほど盛り上がっていません。
その原因のひとつが、声をあげた人を責める、非難する社会環境にあります。
勇気を出して告発した女性がきれいでないと判断すると、「でっちあげ」と叩き、美人だと判断すると「ハニートラップ」と叩く。
そして、加害者ではなく、被害者の落ち度を探します。
男性と一緒に飲みに行ったあなたが悪い、そんな恰好をしていたあなたが悪い、そんなあらさがしばかりして、加害者を責めない、そしてより大きな、性暴力に寛容な社会のシステムを問題視しない。
そんな言説を子どもの頃か見ながら育った若い女性たちは、被害にあっても「自分が悪い」「仕方がない」と思いこみ、声をあげることは難しいのです。

その結果、男性たちの勘違いが進んでしまいました。
今年7月、NHKの朝イチが行った「性行為の同意があったと思われても仕方がないと思うもの」というアンケート調査結果は驚くべきものでした。
二人きりで飲酒した場合27%の男性が、露出の多い服装をしている場合、23%の男性が、女性が泥酔している場合、なんと35%の男性が、同意があったと思われても仕方がない、と回答しています。
女性から見ればとんでもありません。こんなことではうっかり男性と飲酒もできません。そして泥酔しているのに、性行為をするだなんてとんでもないことです。
ところが、こうした非常識が信じられている、そして、裁判の世界ですら、こうした非常識が常識になっています。

伊藤詩織さんは、年輩の男性ジャーナリストから意に反する性的暴行を受けたとして、男性をレイプで告訴をしましたが、結果は不起訴でした。
しかし、彼女だけではありません。女性が同意することが到底考えられない性的暴行のケースで、男性が何の処罰もされずに終わるケースは後を絶ちません。私は多くの女性が悔し涙を流しているのを弁護士としてみてきました。

しかし、そんな性暴力に寛容な社会は変わる必要があります。

明確な同意がない限り、性行為に進むことは許されません。
刑法は、意に反するすべての性行為を処罰するように改正されるべきです。
悲しい思いをする人を減らしていくために、社会の意識も変わっていく必要があります。
私は特に、若い人たちから意識を変えてほしい、と願っています。性について、新しいカルチャーをつくってほしい。
こらちのスライドは、人事院が定めたセクハラの留意点です。これが守られていれば、セクハラに苦しむ人も減ることでしょう。

伊藤詩織さんは「自分と同じ被害に苦しむ人が増えないように」と考え、実名で性暴力被害を告発する活動を続けています。ところが彼女に対して応援の声もある一方、バッシングもあると聞きとても残念です。

しかし、声をあげた人が叩かれるなら、声をあげられない無数の人たちも含めて、泣き寝入りは将来にわたり続きます。
私たちに求められているのは、声をあげる人たちを一人にしないこと、勇気を出して声をあげた人の声を受け止めて、出来ることなら応援することではないでしょうか。

私たちヒューマンライツ・ナウが最近取り組んだキャンペーンにアダルトビデオの出演強要被害という問題があります。「モデルになりませんか」「タレントになりませんか」と女性を騙して契約書にサインさせたとたん、態度を豹変させ、AVの仕事を強要し、従わなければ違約金を要求する、そんな被害に多くの女性が苦しんできました。
2016年3月に被害者の方のお話をもとに調査報告書を公表したとき、私たちや被害者を待っていたのは、「そんな被害はでっちあげでは? 」というバッシングでした。ところが、その時、「私たちも被害にあいました」と勇気を出して告発する女性たちが次々と現れてくれました。告発の声があがるたびにメディアが報道し、大きな社会問題となり、今年5月に政府は本格的な対策を講じることを決定したのです。あの時、バッシングの中でも、「私も被害にあいました」と勇気を出して告発した方々がいなかったらどうなっていたことだろうと思います。そしてその勇気をずっと励まし続けてくれた心ある男性たち、女性たちの応援もとても貴重なものでした。
声をあげる人たちの声に社会が、多くの人が耳を傾けてくれることは、声が大きくなり、たす、からかけるになっていくことは、人権問題を解決させ社会を前進させる大きな原動力になるのです。

ところで最近、性暴力の問題に限らず、「声をあげた人、権利主張をした人、目立っている人をみれば叩く」「バッシングする」という風潮があるのではないでしょうか。

今年だけでも、航空会社バニラエアでの待遇の問題を訴えた障害者の男性、熊本市議会で、子ども同伴で議場に入ろうとした市議が、みんなに迷惑をかけたという理由でバッシングの対象になりました。最近の風潮は、権利を主張した人の側の調整不足や既存のルールに従わなかったこと、さらに過去の言動まであら捜しして、非難するというやり方です。そして声をあげた人は「トラブルメーカー」と責められます。
どうして、彼らの話をまずじっくり聞こうとしないのでしょう。彼らが提起した、もっと大きな問題提起、障害者がもっとアクセス可能な社会をつくること、子育て中の人が政治参加しやすい社会や議会をつくることに議論が集中すれば、よりよい社会をつくれるきっかけになるはずなのに、と思うと残念です。
声をあげる人の足をひっぱる現象が続くと、怖くて誰も声をあげられなくなります。それはみんなの首を絞めて、ひたすら我慢する窮屈な社会をつくってしまうのではないでしょうか。

アメリカでは、1960年代、人種差別を撤廃しようという公民権運動が起きました。一人の黒人女性がバスで白人だけが座れるはずの席に座り続けた、つまり、既存の秩序に身をもって挑戦したことが理由で高揚し、ついに黒人差別を撤廃する公民権法ができました。人種差別に基づくおかしな秩序に従わないという声をあげ、多くの共感を呼んで社会が変わったのです。日本でも実は、同じころ、女性だけ30歳で定年するという差別的な定年制度を持つ企業慣行が横行していました。ある女性がこの企業慣行は憲法違反だと訴えて戦いました。みんな我慢して従っていたのに彼女はこれは差別だ、おかしいと声をあげた。
憲法は男女平等を保障しています。憲法に違反する社内ルールは無効です。
そこで、最高裁の判例が彼女の訴えを認めました。そして全国の会社で、女子差別定年制は撤廃されたのです。女性でもずっと働き続けたい、という当たり前の願いも、企業慣行に意を唱えた、一人の勇気から実現したのです。その恩恵を私たちは受けているのです。

私たちは社会にはびこるおかしなルールや慣習を変えてより生きやすい社会に進歩させることができます。そしてそれはひとりひとりが声をあげることから始まります。
声をあげる人はトラブルメーカーではなく、チェンジ・メーカーなのです。

私たちひとりひとりが生きやすい社会をつくっていくために、声をあげる人をサポートしませんか。

私は人権侵害の構図はいつも同じだと考えています。ひとつは、加害者が圧倒的に強いこと、ふたつめは被害者は弱い立場に置かれて孤立させられていること、最後に三つ目が社会の無関心です。
その無関心がさらにバッシングになることすらあるのです。
私たちの力で、この3つの要因のうち、最初の二つを変えることは難しいかもしれません。しかし、無関心、さらにバッシングというような要素を私たちは変えることができます。そして多くの人が関心を寄せ、ノイズをあげると、事態は変わるのです。
私たちも、声をあげた人に寄り添い、応援することによって、日本をよりよい、誰にもいきやすい社会に変えていくことができる、それを私は信じています。

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AV強要被害問題は今、どうなっているのか。今も苦しみの中にいる被害者たち

みなさま、今年も大変お世話になりました。
AV出演強要被害問題、今年当初から全開で取り組んでまいり、今年5月に政府が対策を決定、という成果をあげました。本当にお礼申し上げます。
でも、まだまだ課題が多いです!!
そこで、ヤフーに11月に掲載した記事を転載いたします。是非新年、被害救済がさらに進む年になりますように。願っています。

■ AV出演強要問題は今どうなっているのか
  若い女性が「タレント」「モデル」などにならないかとスカウトされ、契約を締結した途端、契約をたてにAV出演を強要される「AV出演強要問題」。

  2016年にヒューマンライツ・ナウが調査報告書を公表して以降社会問題となり、今年3月に日本政府は緊急対策を決定、5月に本格的な対策を発表しました。

  これを受けて、政府でも様々な取り組みを進めており、今年9月の内閣府・専門調査会にも各省庁の今後の取り組みが詳細に報告され、予算要求をされています。

  今日まで続いている政府の女性に対する暴力をなくす運動のなかでも、西原理恵子さんのポスターにAV出演強要問題が取り入れられるなど、啓発も進められ、昨年とは格段に違う政府の取り組みにまずは心から感謝したいと思います。 

  こうした取り組みを受けて、事態は改善していると言えるか、といえば、従前に比べて政府一丸となった取り組みが開始されたため、社会全体として「気をつけよう」「ゆるさない」という意識が芽生えた点で、大変良かったと思います。

 しかし、現場の実情をみるとまだまだ深刻。未だに被害者は苦しみの中にいるのが現実です。

 そこでヒューマンライツ・ナウは被害者支援団体と一緒に、11月30日に院内集会を開催し、さらなる対策としての立法を求める院内集会を開催し、実情を訴えることにしました。

11月30日開催の院内集会告知 50人限定、要申し込み
11月30日開催の院内集会告知 50人限定、要申し込み
 こうした機会に先立ち、この場を借りて、被害に関する現状を被害の各ステップごとにご紹介していきたいと思います。

 (以下の内容は、守秘義務を前提として、支援団体、弁護士等と情報交換をして得られた情報に基づくもの、プラス私自身の確認している被害事例に基づくものです。守秘義務がとても大切な事例ですので、一部に具体性に欠く点があることをご理解いただきたいと思います)。

■その1 勧誘段階  スカウトや虚偽勧誘広告は今も野放し。
 若い女性が勧誘されて騙される入口になるのはスカウトです。

 いま、スカウト側も、路上でAVへの出演を勧誘することは法律に触れると判断して、さすがに路上で「AVに出ないか」などと言うスカウト行為を公然と行うことは少なくなっています。

 その代わりに、目的を偽った「モデル」「コスプレモデル」「デッサンモデル」等の勧誘を行い、そののちにAVだと告げるケースが後を絶ちません。その後の執拗な勧誘に逃れられない若い女性は未だに多いのが現状です。

 高額報酬という文字とともにネットで「コスプレモデル」「デッサンモデル」中には「東京コレクションモデル募集」などと大々的に宣伝し、応募した女性をAVに執拗に勧誘し強要する、という事例が報告されています。

 また、未成年の頃から『アイドル』になれる等と長い時間をかけて関係性をつくり、幻想を持たせて、着エロに出演させ、18歳になるとAVに出演させるというケースもあり、児童ポルノ被害とAV強要被害は地続きの関係にあります。

  厚生労働省は、今年9月15日付で出した「依頼」文書で、AV出演の勧誘、AV制作会社への女優の派遣がそれぞれ職業安定法、労働者派遣法に違反することを明記し、法令順守を依頼していますが、業界がこれをどう受け止めるのか、まだまだ不明です。

  法令順守をするならば、すべてのAVプロダクションは、派遣事業者として許可を得なければならないし、許可基準を満たすために業務を適正化しなければならないはずですが、そのような話は聞いてことがありません。

  さらに、今後は一切スカウトを使用しない、虚偽広告で応募をさせる勧誘方法を用いる業者は使用しない、という取扱いとされる必要があります。果たしてそのような形でしっかりと規制されていくのか、問われています。

■その2 契約段階
 スカウトされた女性の多くは若くて法的知識に乏しく、プロダクションから提示される極めて不平等な契約書にも十分な説明も受けないまま署名捺印してしまいます。そして、後になって契約書をたてに「義務をはたせ」「出演しないなら違約金を支払え」と言われるケースが多く、多くの場合契約書を渡してもらえません。さらに、メーカーとの契約書(出演同意書)についても極めて女性に不利な内容であるにもかかわらず、プロダクションから強要され、メーカーが提示した書類にサインする以外の選択肢を与えられていません。

 これが私たちが2016年3月の調査報告書に書いた内容でした。

 今もこうした実情は、大きく変わっていません。

 最近、相談に来られる被害者も、今なお、契約書のコピーを手渡してもらっていない、と訴えています。

 そして、メーカーに連れて行かれた際、契約書の内容を説明されることもないまま、「全員退席するからカメラの前で契約書を読み上げてほしい」と言われ、読み上げさせられた、というケースがありました。

 既にプロダクションから「絶対断らないでくれ」と厳しくコントロールされ、NOという選択肢を奪われている被害者の方は、渡された紙を読み上げるしかありません。

 十分な説明もないまま承諾させ、カメラの前で読み上げさせる、という運用が事実とすれば、それは、単に業界関係者を守るための有利な証拠づくりにほかならないのではないでしょうか。

■その3 撮影段階
 AVの撮影がいやでも、「バラし代がかかる」等と言われ、撮影から逃れられない状況は今も続いています。

 SOSを受けて、弁護士などが「契約解除ができるよ」「未成年だから契約を取り消せます」等と法律的なアドバイスをしても、「どこまでも追いかけてきます」「逃げるところがない」などと追い詰められた心境になる被害者は少なくありません。

 そうした被害に対し、タイムリーに対応する支援体制もまだ十分に整備されておらず、民間の力では限界があります。

 撮影段階では最近の事例でも、ひどい暴行、人権侵害があった、聞いていない撮影内容だけれども従うしかなかった、と訴える被害者の方がいます。

 そして、複数男性との本番の性交渉を避妊具もつけずに行う、場合によっては射精をされてしまう、ということもいまだに続いています。女性たちは性感染症に脅え、妊娠のリスクにも脅えています。

 撮影の後には、医師の処方もないモーニングアフターピルを渡され、飲むように指示されますが、それも人体にどのような影響があるかわからず怖い、という訴えがいくつも寄せられています。

 さらに、撮影段階でのトラブルを防止するために監視カメラのようなものが常時設定されている、というクレームもあります。そのこと自体が怖いし、のちに悪用されてネットに公開されるのではないか、と強く怖れる女性も少なくありません。

■ その4 販売・配信段階
 相談事例でしばしばあるのが、モデルや露出のない高額バイトだと思って応募したところ、AVだと言われ、怖くなったけれどしつこいし断れない、「絶対に見バレしない」と約束されて断れずに「見バレしない」という約束を信じて嫌だけれど仕方なく撮影を一回だけした、というようなケースです。

 トラブルにあってもなかなか権利行使できない、大事にできない若い女性がしばしば陥りがちな被害のパターンです。

 ところが、見バレしない、パッケージの顔を変えてわからないようにする、ネット配信はしない、等の口約束は単なる口約束であり、全く守られず、顔もそのまま、大々的に販売・配信、という約束違反が多いのが実情です。

 そして、そうした事情は「口約束」ですので、後で訴えても、「契約書には一言も書かれていない」等と言われ、販売・配信もなかなか停止してもらえません。

 そのために、婚約が破談になる、結婚相手に知られ険悪な関係となる、地元の友人知人に知られてしまい、居場所を奪われる、という被害が寄せられています。

■ その5 支援機関・弁護士に相談した後の販売停止について
 こうしたトラブルが支援機関に寄せられ、第三者が介入した後も、簡単に販売・配信停止が実現しないのが現状です。

 最近、DMM、アマゾン等では、支援団体等から強要被害、意に反する販売であるとして販売・配信停止を求められた場合、比較的迅速に販売・配信を停止する動きが始まりましたが、まだ業界全体に浸透しているとはいえません。   

 大手といわれるメーカーの中には、販売、配信をすぐに認めるメーカーもありますが、基本的には

主張されている強要のような事実は一切ありませんが、お気持ちを察しして自主的判断として停止します

 と連絡してくる社がほとんどです。

 またとある最大手メーカーは、配信・販売停止を求める被害者の訴えに対して、  

私たちは出演強要は一切許されないと考えています。しかし、プロダクションに確認したところ、そちらの主張する強要の事実を否定しました。そこで、そちらから強要を示す明確な証拠を提出いただければ、販売・配信停止を進めます。

 と通知してきます。

 AV出演強要被害は、メーカーには見えないところで、多くは密室などで脅される被害です。被害者の多くは若い女性で、強要を明確に立証する物的な証拠などあることはほとんどありません。そうした被害の実情を知りながら、こうしたことを言ってくるのは極めて問題と言わざるを得ません。こうしたメーカーは、証拠が出されなければ販売を続ける、または再開する、としています。

 また、同じ最大手メーカーは、未成年の行為として民法により契約の取り消しを通告した場合、「支払った出演料を全額返還してください」と求めてきます。出演料を返還するのであれば、出演により得た売上利益も返還するのがフェアですが、出演料のみ返還せよ、と言ってくるため、未成年の女性たちはおびえてしまうのです。

 さらに、大手でも販売・配信停止に一切協力しないメーカーも今でも少なくありません。さらに大手でない無数のメーカーや海外の無修正サイトは、いまだに被害者の訴えに非協力的です。

 そもそも被害者は現場に行って出演同意書にサインし、そのコピーももらえませんので、どのメーカーの作品に出演するのか認識すらしていません。販売されたDVDのパッケージにもメーカーの住所、氏名、連絡先は明記されていないので、苦情を言うこともできないのです。

 さらに、撮影された映像は、転売されたり、二次利用されたり、総集編がつくられたり、違う女優の名前でまったく違う内容のものとして発売されたり、やりたい放題使われてしまいます。

 出演時にメーカーは被害者に、

今回出演した作品をあらゆるメディアで発売・上映・放送することに異議ありません。パブリシティに全面的に協力します
などという同意書にサインするよう求めます。そして被害者の方はこうした書類にサインする以外の選択肢がほとんど与えられていません。

 しかしひとたびサインすれば、映像データはどこまでも転売、拡散され、海外の無修正にまで拡散され、消すことが不可能というケースも多いのが実情です。

 各種配信事業者は、削除要求に対し、本人確認のための戸籍謄本等の書類の提出を求めてきます。しかし、周囲にばれてしまうこと(身バレ)を何よりも怖れている被害者の方が、削除してもらえるかもわからないネット事業者にプライバシーの根幹にかかわる情報を提供することは極めてリスクが高く、多くがこれ以上のプライバシー拡散を恐れて、削除要求にすら踏み切れない状況なのです。

  私が個人的に扱っている案件では、販売停止を求めてとある大手メーカーと交渉している最中に、被害者の無修正動画が拡散するという事例がありました。

メーカーは無修正の流出は自分たちの責任ではない、そもそも自分たちは仕入れて販売しているだけであり、制作者、著作権保有主体が誰なのかは教えられない、と拒否回答、審査団体も著作権主体が誰なのか回答を拒絶しています。

 このようなことが現在もまかり通っているのです。

■ 処罰
 AV出演強要を巡って、最近、強要等でDVD販売サイト運営者が有罪判決を得た事例があります。

AV出演の承諾強要で有罪判決、大阪地裁

「悪質な常習的犯行」

 モデルとして募集した少女らにアダルトビデオ(AV)への出演を勧誘し、強制的に承諾書を書かせたとして、強要などの罪に問われた元DVD販売サイト運営の金沢新一被告(48)に大阪地裁(松田道別裁判長)は21日までに、懲役3年、保護観察付き執行猶予5年、罰金30万円の判決(求刑懲役3年、罰金30万円)を言い渡した。

 松田裁判長は判決理由で「若い女性の思慮の浅さに乗じ、出演せざるを得ない状況に追い込んだ悪質で常習的な犯行だ」と指摘。

 一方、被告が起訴内容を認め、被害者の1人に慰謝料として20万円を支払ったことなどを理由に保護観察付きの執行猶予としたが、期間は「再犯の恐れも否定できない」と最長の5年を付けた。

 判決によると、2014~16年、インターネット上でコスプレモデルの募集を装って少女らを集め、東京・渋谷や大阪の撮影スタジオでAV出演に勧誘。うち当時18歳だった少女を脅し、承諾書に「わいせつ行為は私の意思です」と書かせた。〔共同〕

出典:日経 10月21日


 この事例については、以下の報道にあるように、女子高生ら約200人が被害にあったとみられていました。 

19都府県の女子高校生ら約200人が被害に遭ったとみられ、同課は出演を強要した疑いも視野に実態解明を進めている。

出典:時事通信


 ところが、被害者の多くが自分のプライバシーが晒されることを恐れ、捜査に協力できず、これだけの被害にもかかわらず、起訴できた事例は一部にとどまり、加害者は執行猶予判決を受けたにとどまったのです。

 本件はAV出演強要被害について強要罪で有罪判決が下されたケースとしては意義があり、警察も熱心に動いてくれたと思うのですが、今後に多くの課題を残したケースだったということができるでしょう。

 今後、年若い女子学生や若い女性に一生の心の傷を負わせる被害を与えた加害者・事業者に対し、もっと厳しい処罰で臨むことができないのか、被害者が救済される道があるのか、しっかりとした検証が求められていると言えるでしょう。

■ 有識者委員会の提言について
AV業界は、この間の流れを受けて、AV業界改革推進有識者委員会を発足、10月4日に提言をまとめています。

資料によると、以下のようなことが提案されているようです。

 

・女優の人権に配慮した適正AVを実現するために、ルール、システムを整備する。

 ・メーカー、プロダクション、女優の統一契約書を使用する。

 ・プロダクション契約(登録)時に、女優が再検討できる期間を明確化する。

 ・プロダクション登録時の第三者による意思確認と、重要事項説明の制度化

 ・面接、契約、撮影時の現場録画による可視化

 ・出演料等、金銭面の女優への開示

 ・二次使用にあたっての使用料の女優への支払い

 ・作品使用期間の定め(最長5年)

・通報窓口・ホットラインの開設

 ・仲裁機関の設置

 これが実現すれば一歩前進といえるかもしれません。

 しかし、このルールに従わない業者は広範に存在すると考えられ、従わない業者が野放しになり、被害者が放置されることがないようにするためにはまず、しっかりした法整備が必要でしょう。  

 そして、この提案では、悪質なスカウトへの対応や、労働者派遣法、職業安定法の順守については一言も述べられていません。

 また、意に反する作品に出演を余儀なくされた場合に削除をしてほしいという切実な要望にどこまでこたえられるのか、大きな疑問があります。

 作品の流通期間を制限することは重要ですが、最長5年ではあまりにも長く、被害者の実情に寄り添ったものとは到底言えませんし、その5年間、どこまでも拡散された画像・動画をきちんと業界が責任をもって全部削除してくれるのか、という問題も残ります。

 また、契約時のみ録画をしたとしても、カメラの回っていないところで脅されたり、騙されたりして完全にコントロールされ、ノーと言えない状況に置かれてしまった被害者たちがいることを考えれば、契約書のところで完全に同意しているからいいのか、というと、かえって被害者を追い詰める結果になってしまうことを私は懸念します。

■ 立法による抜本的解決が今こそ必要
 私たちヒューマンライツ・ナウは、問題解決のために2016年3月に発表した報告書で、以下の内容を含む律法を求めています。

1) 監督官庁の設置

2) 真実を告げない勧誘、不当なAVへの誘因・説得勧誘の禁止

3) 意に反して出演させることの禁止

4)  違約金を定めることの禁止

5) 禁止事項に違反する場合の刑事罰

6) 契約の解除をいつでも認めること

7 ) 生命・身体を危険にさらし、人体に著しく有害な内容を含むビデオの販売・流布の禁止

8) 意に反する出演にかかるビデオの販売差し止め

9) 悪質な事業者の企業名公表、指示、命令、業務停止などの措置

10) 相談および被害救済窓口の設置


  

 実際にしっかりと監督官庁を設置し、プロダクションやメーカーを登録制にする等して、適正な運営をしていない場合は業務停止等の強力な措置を講ずることができることが必要でしょう。

 このほか、

 ・人身取引罪の構成要件の拡大、

 ・労働者派遣法有害業務派遣については、派遣先も処罰対象とする法改正、

 ・労働者派遣法・職業安定法の厳罰化、  

 ・さらに新たなAV出演強要罪の新設   

  など、刑法上の対応も必要と考えられます。

 リベンジポルノ罪の構成要件の拡大により、意に反する動画をアップすることをすべて禁止し厳しい罰則を科すことも求められます。

 さらに、「出演を承諾し、どんな利用にも異議ありません」という定型文書にサインさえすれば、二次利用、三次利用、無修正の海外サイトへの転売等もやり放題という事態を解決するために、

 ・著作権法について改正し、性的な画像に関してはいわゆる「ワンチャンス主義」を修正することが必要となるでしょう。

 こうしたいくつかにわたる法律を修正し、AV出演強要被害をなくすための法整備を国会議員の皆さんの力を借りて実現していくことが今求められています。

 是非、議員の先生、省庁の方には、この問題の解決に向けて取り組みを一層強化していただくよう呼びかけたいと思います。

 そして、多くの女性たちがいまも苦しみの中にいることを多くの方に知っていただき、声をあげられない人たちのために声をあげ、話題にしていただきたいと思います。

2017年12月11日 (月)

サーローさんの演説を聞いて

昨晩はノーベル平和賞の授賞式でした。
私たちヒューマンライツ・ナウもICANの1メンバー。
最近加入したばかりのメンバーですが、加入してこの1年弱、核兵器禁止条約交渉、会議、採択、署名というプロセスをめまぐるしく見てきて、最後にこのノーベル平和賞受賞というニュースで今年を締めくくることとなりました。

私は地雷廃絶キャンペーンがノーベル平和賞を受賞した際、ジョディ・ウィリアムスさんが「あなたも世界を変えることができるのです」と問いかけたことに心を揺さぶられ、自分でNGOを立ち上げ、国際NGO登録して、ニューヨークに事務所を置き、人道的軍縮に関する世界のNGOネットワークに参加して、ICANにも加盟しました。
そして約20年後となる今年、ICANが不可能と思われていた核兵器禁止条約を可能にし、ノーベル平和賞を受賞したことに関われたことに、心から光栄に嬉しく思います。

しかし核兵器禁止条約をめぐる状況がバラ色では決してないことは、今年の秋に参加した国連総会でもありありとわかり、核兵器保有国やEU、日本が「非現実的」と無視を決め込む姿に焦燥感を感じてきました。

ところが、そんな中で迎えた授賞式、ベアトリスとサーロー節子さんの演説は、人類のモラルを代表するもので本当に素晴らしかった。

サーローさんの演説は、本当に心をえぐられるような深い内容でした。被爆者が人として生きることも人として死ぬこともできずに断末魔の中、本当に残虐に殺されていった、その生き証人である元少女の、いかなることがあってもあのようなことを人類が繰り返してはならないという、本当に深い、人間性に根差した訴えだったのです。

https://www.buzzfeed.com/jp/saoriibuki/nobel-peace-ican?utm_term=.ml67bWgq4#.uqzo6LZVm

心を揺さぶられるあのスピーチに、誠実に向き合えない者がこの世にいるのでしょうか。
私たちが原点とすべき素晴らしい演説に触れられたことを私は決して忘れないでしょう。

ベアトリスは、単なる武器、ツールに過ぎないものに私たちが支配されている、恐怖に支配されている、
その恐怖から自由を得る必要があると訴えました。
そうです。核抑止力論というプロパガンダに影響され、私たちは恐ろしい、核とともに生きる
という実に恐ろしい選択が、あたかも安全で合理的な選択肢であるかのように洗脳されているのです。
ひとつの間違いで、その安全がもろともに崩れるかもしれないというのに、洗脳され、しがみついている。

恐ろしいことです。

安冨歩さんのツイッターにこんなことが

核の傘のもとに入り、核保有国の顔色をうかがって暮らすということは、恥である。
日本よ、恥ではなく名誉を。

本当にその通りです。私たち一人一人の生き方に深くかかわる問題として、怒りをもって政府に、核保有国に迫りましょう。核兵器禁止こそが唯一の安全で平和な選択肢だと。

Yes I Can!


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