デービッド・ケイ氏報告に関する事実に反する報道と論評・産経新聞、百田氏、田母神氏らに抗議・反論します。
■ デイビッド・ケイ氏の国連での報告について
国連「表現の自由」に関する特別報告者であるデイビッド・ケイ氏が、スイスジュネーブで開催中の国連人権理事会において、2016年4月に行った公式訪問調査に関する調査報告書を公表、日本政府とメディアに対し、様々な勧告を行いました。
NHKでは以下のように報道されています。
国連人権理事会 日本はメディアの独立性強化を
6月13日 4時54分
日本で表現の自由について調査を行った国連人権理事会の特別報告者が12日、日本政府に対し、メディアの独立性を強化するため法律を改正すべきだなどと勧告しました。日本政府は「表現の自由や知る権利は憲法で最大限保障されている」と反論しました。
スイスのジュネーブで開かれている国連人権理事会の会合で、特別報告者をつとめるアメリカ・カリフォルニア大学教授のデービッド・ケイ氏は日本で行った表現の自由についての調査結果を報告しました。
ケイ氏は「日本では政府当局者がメディアに対して直接・間接的な圧力をかけることができる」などと指摘し、日本政府に対し、メディアの独立性を強化するため放送法の一部を見直すべきだと勧告しました。
ケイ氏はまた、「記者クラブの制度は調査報道を萎縮させる」などと指摘し、表現の自由と知る権利を確実に守る環境を整えるため、メディアも責任を果たすよう求めています。ケイ氏の勧告に対し、ジュネーブ国際機関日本政府代表部の伊原大使は「日本政府の説明や立場に対し、正確な理解のないまま述べている点があり遺憾だ」と批判したうえで、「表現の自由や知る権利は憲法で最大限保障されている」と反論しました。
ケイ氏は人権理事会に提出した報告書で、特定秘密保護法や教科書検定、さらに沖縄での集会の自由についても懸念を示していて、13日以降も議論が続く見通しです。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170613/k10011015571000.html
最近、国連特別報告者からの日本に対する勧告が相次いでいますが、政府には、見解の違う部分を埋め、建設的に状況を改善する努力をしてほしいと願います。
国連演説では伊原大使が「日本はこれからも表現の自由を守っていく」と決意表明されました。これは、心強いことです。
■ 残念な報道状況
ところで、この件に関する日本のメディアの受け止めには一部に大変残念なところがあります。
まず、産経新聞は、ケイ氏の報告を「国連反日報告」とフレームし、連日ネガティブキャンペーンを展開しています。
このようなタイトルも異様です。「「嘘」まき散らす国連報告者 デービッド・ケイ氏、反米基地運動にも言及」
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170614-00000063-san-pol
国連特別報告者が調査ミッションに行けば、不十分な点を指摘し、改善を求めるのは、いわば日常業務であり、それこそが彼らの任務です。ケイ氏は、今回、日本、トルコ、タジキスタンの三カ国を訪問しており、それぞれに改善を勧告をしていますが、目的はその国によくなってほしい、その国の表現の自由を改善したいということであり、調査対象国を貶めるものでは一切ありません。
むしろ、ギフトとして受け取り、取り入れられるところは取り入れるという姿勢を示すのが民主国家のありようですが、このようなうがった見方は極めて残念です。
数ある国から日本を選んでテクニカルサポートをしてくれたことを感謝し、メディア全体で議論が進むことが期待されますが、まず貶めて拒絶するというのは甚だ残念ですね。
ケイ氏は、民主国家において、政府からメディアへの圧力はしばしばあることだ、とし、逆に、それを跳ね返す、メディアの独立性、ジャーナリストの連帯が日本には不足しているため、事態を深刻なものにしている、と警鐘をならしています。
産経、読売のこの間の論調はそれを裏書きしているようで、残念な限りです。自ら現在のメディア状況を改善するための芽を摘んで踏みつけているようなものですね。
■ 事実に反する中傷と印象操作
ケイ氏の報告をめぐっては、私およびヒューマンライツ・ナウ(HRN)に対する事実に反する中傷や、不当な印象操作がありますので、この場を借りて抗議・反論いたします。
その最たるものは、
https://www.youtube.com/watch?v=qCnPZYhXIU8&feature=share
百田尚樹×上島嘉郎 ※裏でトンデモないことをやっている国賊2名をご紹介
※伊藤和子と田原総一朗
という内容です。
まず、勝手に私の写真を貼ってユーチューブのバナーにするのは、肖像権侵害ですね。
田原総一朗氏と私を「国賊」とレッテル貼りするなど、そもそも許しがたいことです。
最近、国賊、反日、非国民、売国、などと言う言葉が平気で使われるようになり、まるで戦前のようですが、そもそも意見が対立するからと言ってこのような言葉を言論人やメディアは安易に使うべきではありません。
内容をみると、
1) 日本の左翼が国連の専門家に近づいてネットワークをつくっている、金も出している。ケイ氏やカナタチ氏は、日本の左翼が金を出して、日本の左翼に都合のいいことを国連で発言させている。
2) ヒューマンライツ・ナウがカナタチ氏の書簡が出る前に、国連人権理事会に対し、共謀罪に懸念を表明する声明を送付した。
3) 伊藤和子は、2015年に来日した、国連ポルノに関する特別報告者ブキッキオ氏に、日本の女子高生の30パーセントが援助交際をしているという情報をふきこんだ人物である
4) 伊藤和子は国賊である
そして結果として、カナタチ氏やケイ氏の報告内容を貶めようとするものです。
このうち、2)は確かにそうです。しかし、
1)、3)はどういう証拠に基づいているのでしょうか。
3)については、池田信夫氏の根拠のない発言に基づくものであり、名誉毀損として池田氏に賠償を命ずる東京地裁の判決が出されています。近く高裁判決も出される予定ですが、私は賠償金の増額を求めており、適切な判決を期待しています。
1)についてですが、少なくとも私たちの団体は左翼ではないのですが(運営顧問にはビジネスロイヤーが多数関わられています)、ケイ氏やカナタチ氏がお金で買収されたなどという事実は一切ないと思いますし、悪質な名誉毀損にほかなりません。
次に、田母神氏は、
https://twitter.com/toshio_tamogami/status/874756671473541120
日本を貶める国連人権理事会ののデービッド・ケイ氏は日本のNPO法人「ヒューマンライツ・ナウ」の伊藤和子事務局長らと近い関係にあるという。彼が日本を貶める背景にはそれを仕掛ける日本人グループがいるということだ。国連の活動に多額の資金を出しながら国益を棄損される、もういい加減にしろ。
としています。これは、産経の下記報道(https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170614-00000063-san-pol)や、
日本やタジキスタン、トルコに関する報告や質疑は約2時間続き、日本人記者団の取材に対応した後のケイ氏は、NPO法人「ヒューマンライツ・ナウ」の伊藤和子事務局長のもとに行って、親しげにあいさつのハグをした。伊藤氏は昨年4月のケイ氏の訪日調査前、放送法に関する情報を提供した人物だ。その伊藤氏は、13日の理事会で非政府組織(NGO)の立場で「日本政府が特別報告者の声を無視し、敵対的であることを強く懸念する」と発言した。
産経に出された杉田水脈という人物の投稿(産経のエッセイでしょうか?)
「デビッド・ケイ氏はヒューマンライツ・ナウとべったりでした…沖縄反基地は実態見ず報告書」
http://www.sankei.com/premium/news/170603/prm1706030031-n6.html
に触発されたものでしょうか。
杉田氏は、
以前、別の特別報告者が「日本の女子高生の30%(後で13%に修正)が売春をしている」と国連に報告しましたが、この情報を提供したのは伊藤和子氏ではないかと言われています。今回のケイ、伊藤両氏の雰囲気を見て、国連人権委員会とヒューマンライツ・ナウの親密さを改めて思い知りました。
と、百田氏同様に、ブキッキオ氏の件で根拠のない、私が30%という情報を提供した旨の事実を「言われています」などとして繰り返し、根拠のない事実を広めていますが、それが産経紙にそのまま掲載されたということは重大なことだと思います。
産経紙の論調を総合すると、
ケイ氏と私が親しい、
私は30%という根拠のない数字を国連特別報告者に提供した
というところから、ケイ氏の報告書の信用性を貶め、私を特別報告者に嘘を広める人物だと読者に誤信させる印象操作をしているとしか思えません(故意かどうかはわかりませんが)
30%の件は根拠に基づかないことは、既に記載した通りです。
そして、私はケイ氏と別に近い関係にはありません。
彼が調査を開始した経緯はこちらに詳しく記載されていますが、
http://wpb.shueisha.co.jp/2017/06/18/86617/
日本への調査は2015年3月に始まり、政府に公式招聘を求めました。とされ、その前は一度もケイ氏にあったことがありません。 その後の調査に対し、限られた協力をすることはありましたが(ヒューマンライツ・ナウは国連NGOですので、国連人権高等弁務官事務所との協力が一般的に期待されているのです)、One of themに過ぎません。
2012年に国連健康に関する特別報告者・アナンドグローバー氏が福島原発事故の影響を受けた人々の健康権について調査するために来日された際はコーディネートを行いました。
しかし、ケイ氏の訪日の際には、そのような全面的な協力はできませんでした。
ケイ氏が昨年来られた際に私はほとんど言葉を交わす機会はありませんでした(調査対象はジャーナリストや学者等ですから)が、僭越ながら一言だけお話したことがあります。
それはブキッキオ氏の例をあげ、
あのようなことは日本のNGOにとってとても迷惑であり、あなたの調査活動全体を信用性のないものと受けとめられ、調査自体を台無しにする危険性があるので、根拠の明確でないことを記者会見で述べたり、報告書に記載するようなリスクは冒さないでほしい、
ということでした。特別報告者には釈迦に説法でしょうし、大変失礼な物の言い方でしたが、大変心配だったので申し上げたわけです。このようなことを言うので、あまり私のことは快く思っていなかったと思います(私が彼の立場だったら不愉快に思ったでしょうから)
日本への公式訪問後、昨年FACTAという雑誌で、この訪日の際に私が政府から監視されていたという報告があったので、ケイ氏らが深刻な問題とみて、政府に問い合わせをするなどの活動をされ、そのことについて秘書を通じて「構いませんか」と聞かれ、「構いません」と回答したことがあります。
また、調査報告書公表後、これを広めることは重要ですので、HRNとしては、その面ではある程度位置づけて取り組んでいます。その関係で打合せのやりとりは実務的に進めてきました。
HRNは、6月初旬にケイ氏が来日された際(招聘は上智大学)に講演会を開催、このたびジュネーブでも再開しましたが、その際に言葉を交わした際の様子をいろいろと言われていますが、米国の大学教授やNGOの方々は皆さんケイ氏と同様にフレンドリーであり(他の国もそうですが)、特段特別なことはありません。
ケイ氏と、その前のフランク・ラ・ルー氏、さらにカナタチ氏に一貫して情報提供をされてきたのは、エセックス大学の藤田早苗さんではないかと思います。
少なくとも、ご本人がそのように話されていますので、情報提供の多くは藤田氏からなされたのではないでしょうか。
http://www.asahi.com/articles/CMTW1706122800001.html
逆に、HRNがやっていないことをHRNがやったかのように受け止められることは、真にロビー活動をしてこられた方々にとっても心外なようですので、ここは明らかにしたほうがいいと思います。
ただ、いずれにしても、特別報告者は裁判官と同じで中立性を求められる立場にありますので、NGOとも政府とも一線を画すことを心がけています。
とにかく、おかしな印象操作は、大変迷惑ですので、本当にやめていただきたいと思います。
小学生レベルのばかばかしい話というほかありませんが、その効果が国連特別報告者の活動を貶めるという点では重大です。
国連特別報告者制度というのは、報道されているような信用性が置けないものではありません。
私が何かマジックを使えば国連が動く、というようなものでも全くありません。それにもともと私にはそのような影響力はありません。
国連に対する情報提供は誰でもすることができます。
その情報提供に、国際人権基準に照らして理があると思えば、そして人権上の懸念があれば、国連特別報告者は行動します。
■ 中身を読んで受け止め、判断しましょう。
もういい加減、意味のない、水準の低いDisりはやめて、日本の状況を冷静に見て、そして、国連特別報告者の報告書をきちんと読んでみるべきではないでしょうか。
実は、報道されているのは(好意的であれ敵対的であれ)、報告書のほんの一部に過ぎず、メディアに対する重要な勧告がまったく報道されていません。
「いつ和訳してくれるんですか?」という問い合わせがHRNにありますが、本来、メディア関係者こそがきちんと和訳して公表してほしいと思って、私たちは待っています。そうした地道な活動のなかから、メディア・ジャーナリズムが自分たちで状況を改善する力が生まれると思います。
報告書については、是非、全部を読んでから公平に判断すべきだと思います。
良薬は口に苦し、でも私たちの社会の状況を改善できるヒントがそこにはあるかもしれません。
日本政府の人権に対する対応や日本の人権状況が国連専門家から指摘を受けて、何か自分が否定されたかのように思う方もいるのかもしれません。しかし、否定されているのではなく、改善の提案を受けているのですから、建設的・ポジティブにうけとめ、聞く耳を持つという姿勢がまずは大切ではないでしょうか。これは何にでもいえることだと思います。
田母神氏は、ケイ氏が「日本を貶める」としていますが、ケイ氏にはそのような意図は全くないはずです。
むしろ日本のように民主主義の進展した先進国と見なされている国で、田母神氏や産経のような、余裕のない子どものような反応が強く出ていることに国際社会は驚いているはずです。
「日本の人権状況は中国や北朝鮮よりはるかにましなのに、どうして日本だけ注意されるのか」という論を聞きますが、国連は日本だけに勧告をしているのではありません。そのことは審議の全体をみればわかります。
そして、極めて深刻な人権状況の国のようでなければこの社会はよしとして満足せよ、ということで果たしていいのでしょうか。いつからそんなに精神的に貧しい国に私たちはなったのでしょうか。
注意してもらえるうちが花、その言葉を私も日本社会を構成する一員として、かみしめたいと思います。
私としては、こうした国際社会の勧告を機に、多くの人にこれからの日本社会をどうポジティブに発展させていくことができるのか、是非考えていただきたいと強く願っています!