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2015年10月

2015年10月17日 (土)

少女の人権を無視・アイドル交際禁止違反で賠償を命じた非常識な東京地裁判決はこのままでよいのか



■ 衝撃の判決

AV違約金判決を受けて、裁判所もようやく女性の人権について尊重した判断をするようになってきたかな、なんて思っていた今日この頃、同じ東京地裁で、アイドルの交際禁止を正当化し、アイドルに賠償を命ずる判決が出たという。

「交際禁止」違反、元アイドルに賠償命じる判決

東京地裁であった9月18日の判決によると、当時15歳だった少女は2013年3月、マネジメント会社と専属契約を結び、「異性との交際禁止」などの規約を告げられた。7月に6人組のグループとしてデビュー。ライブやグッズ販売などで220万円を売り上げたが、10月に男性と映った写真が流出して交際が発覚。会社はグループを解散した。

判決で児島章朋裁判官は、アイドルとは芸能プロダクションが初期投資をして媒体に露出させ、人気を上昇させてチケットやグッズなどの売り上げを伸ばし、投資を回収するビジネスモデルと位置付けた。

その上でアイドルである以上、ファン獲得には交際禁止の規約は必要で、交際が発覚すればイメージが悪化するとした。会社がグループの解散を決めたのも合理的で、少女に65万円の支払いを命じた。ただ、会社側の指導監督が十分ではなかったとも指摘し、賠償額は、請求の約510万円から、大幅に減額した。


出典:読売オンライン9月19日


■ 人権侵害で違法・無効では?

21世紀の日本で、こんな人権の視点に欠ける判決が出ようとは、呆れた。

私は2013年に、AKB48のメンバー峯岸みなみさんが恋愛禁止令を破ったことを理由に丸刈りになって涙で謝罪した際に、

「AKB48 恋愛禁止の掟って、それこそ人権侵害ではないか。」

と問題提起し、

「そんな個人の自由を禁止する就業規則があったら人権侵害で違法・無効であることは明らか。」「恋愛禁止を理由に解雇や降格するのは人権侵害で違法である(こんなこと、真面目に議論するのがアホらしいほど当たり前の話)。 」と書いたところ、様々な御意見をいただいたが、法曹界では当たり前のコンセンサスだと信じて疑わなかった。

ところが、まさか法曹界でこれと異なる判決が出るとは心底驚いた。

「枕営業判決」につづく衝撃、仰天の珍事である。

しかも、賠償責任が認められたアイドルの少女の交際が発覚したのは15歳の時だというのだ。異常である。

■ 判決文を読む。

いくつかのメディアからも問い合わせをいただいたのだが、このたび、この判決の判決文を読む機会があった。しかし、疑問は益々深まった。ここで判決をみていこう。

● 交際禁止の決まり

本件でプロダクションと少女は専属契約書を締結し、「ファンとの親密な交流・交際等が発覚した場合」プロダクションが少女との契約を解除して損害賠償請求が出来ると書かれていた。また、プロダクションから渡された「規約」という文書には、「私生活において、男友達と二人きりで遊ぶこと、写真を撮ること(プリクラ)を一切禁止します。発覚した場合は即刻、芸能活動の中止および解雇とします」と書かれていたという。

AKBの恋愛禁止は、不文律のようであるが、このように明確な文書で、私生活を過度に制限する契約を公然とさせていることに驚いた。

● プロダクションの一存で解散

この契約を締結してしばらく、少女はあるユニットのメンバーに加わったが、それからしばらくしたとある10月初旬、ファンとの交際写真を撮られ、それがファンを経由してプロダクションの手に渡った。しかし、特にこの交際が広く世間に行き渡っていない(ゆえに裁判所も信用棄損を認定していない)。ところが、10月下旬にはプロダクションが一方的にユニットを解散した。

そして、このユニットを通してプロダクションが儲けられたであろう利益等を請求してきたというのだ。

交際が広く知られて悪評が轟いたというわけでもないのに、プロダクションの一存で解散され、挙句に賠償請求されるとは、非常にブラックな展開である。

● 裁判所の判断

ところが、裁判所はこうしたプロダクションの運営を支持・追認しているのである! 判決を読んで驚いた部分は以下のとおりだ。  


本件グループはアイドルグループである以上、メンバーが男性ファンらから支持を獲得し、チケットやグッズ等を多く購入してもらうためには、メンバーが異性と交際を行わないことや、これを担保するためにメンバーに対し交際禁止条項を課すことが必要だったとの事実が認められる。これに反する被告の主張は採用できない。

・・・判決はアイドルグループである以上、交際禁止をすることが「必要だった」と、何の前提もなく認定する。これでは、すべてのアイドルが交際禁止をする必要性やその正当性に裁判所がお墨付きを与えているに等しい。一般論として、異性と交際を行わないことがアイドルの条件だと決めつけるのはあまりにも杜撰であり、現在のアイドルの実態にすら反するのではないか。 


(上記を前提とすると)アイドルおよびその所属する芸能プロダクションにとって、アイドルの交際が発覚することは、アイドルや芸能プロダクションに多大な社会的イメージの悪化をもたらすのであり、これ(交際禁止条項)を設ける必要性は相当高いことが認められる。

・・・ アイドルの交際発覚が「多大な社会的イメージの悪化をもたらす」とどうしていえるのか。ファンが交際を温かく見守る例も少なくないいま、実態にも反している。アイドルも人間であり、自然な感情として交際や恋愛をしたいと考える自由があるというのに、それを「社会的イメージの悪化」とするのは、アイドルの人間性否定の論理ではないか。このような不寛容の論理が横行することは恐ろしい。


一般に異性とホテルに行った行為が直ちに違法な行為とはならないことは被告らが指摘する通りである。しかし被告少女は、当時本件契約等を締結してアイドルとして活動しており、本件交際が発覚するなどすれば本件グループの活動にも影響が生じ、原告らに損害が生じうることは容易に認識可能であったと認めるのが相当である。そうすると被告少女が本件交際に及んだ行為が、原告らに対する不法行為を構成することは明らかである。


被告少女は交際禁止条項があることを知りながら、故意または過失によりこれに違反し、本件交際及び発覚に至ったことは明らかであるから、債務不履行責任および不法行為責任を負う。

・・・ 少女が交際に及んだこと自体が原告らに対する不法行為というのには仰天した。人間の私生活上の行為が、他人の不法行為を構成するとどうしていえるのか。


芸能プロダクションは、初期投資を行ってアイドルを媒体に露出させ、これにより人気を上昇させてチケットやグッズ等の売り上げをのばし、そこから投資を回収するビジネスモデルを有していると認められるところ、本件においては本件グループの解散により将来の売り上げの回収が困難になったことが認められる。

・・・ 判決はこのように言って、ユニット解散により初期投資費用相当額は損害となったとし、過失相殺のうえ賠償を命じたのだが、アイドルの少女をまるでビジネス上の商品、駒のようにしか見ていない、非人間的な判決の理屈が垣間見える。

・・・ 以上の判決を通して垣間見えるのは、芸能プロダクションの事情と、その経済的利益の擁護である。

アイドルはその経済的利益獲得の道具に過ぎず、恋愛禁止という非人間的なルールを課されて人権を制約されるが、契約した以上、プロダクションのビジネス・モデルに奉仕しなければならず、それを阻害する私生活上の行動は不法行為だというのだ。

ここで全く忘れられているのは、契約当事者は人間であり、人権を享有する主体だという事実である。こんなことが判決で堂々と許されると、日本は益々「全体」の利益のためにそれぞれが自己規制をする社会になっていくのではないかと危惧される。

■ 公序良俗に反し、無効

恋愛・交際の禁止というのは、憲法13条により保障される幸福追求権・人格権に対する明らかな侵害である。

私人間の契約であっても、憲法の人権条項に反する契約は、民法90条により、公序良俗に反するとして無効になる。

こうした人権論、憲法論がこの判決では一顧だにされていないのは問題である。

少女側の弁護士さんも様々な主張を展開されていたようだが、裁判所の主張整理をみると公序良俗違反を主張していないようなので残念である。高裁では是非主張していただければと思う。

また、AV違約金判決でも問題になったが、このアイドルとの契約は実態的には労働契約に該当するはずであり、アイドルには労働者としての権利がきちんと認められるべきだ。特に、所定の労働時間外の私生活への介入は許されないはずである(ちなみに、日本の現行法上の例外は、公務員の時間外の政治活動禁止であるが、これも国連から強く批判され、最高裁も管理職的地位にある者のみに適用されると合憲限定解釈をするに至り、人権を保障する流れとなっている。)


このように甚だ疑問な判決であるが、判例集に搭載されるなど影響力があるため、是非控訴してがんばっていただきたいと思っていたのだが、控訴せずに確定した模様で、残念だ。

しかし、このような判決によって、誤った影響が及ぶことは懸念される。是非このような規定の濫用がないようにと願いたい。

違約金に関しては、私が関わった9月9日の東京地裁判決もあるし、
また、こちらも私が代理人を務めた事件であるが、劇団における違約金の定めが控除良俗に反し無効
http://mimosaforestlawoffice.com/topic/topic_20150318hanketsu.html
という判決も出ている。
今回の判決は、事案が異なるとはいえ、こうした一連の東京地裁判決の方向性とは相反する内容である。

最後に、恋愛禁止という日本のアイドル文化は、80年代アイドルの頃には崩れてゆるくなっていたのに、最近年々強化されているように思われる。アイドルを幼稚な存在であり続けてほしい、男性ファンを喜ばせる存在であり続けるべき(そういえば判決には男性ファンのことしか書かれていないが、スターには同性のファンもいるものだ)という日本の未成熟な意識がそのまま今回の判決には無批判に反映されてしまっているように思う。しかし、それは世界の常識とは大きくかけ離れている。

欧米ではスターの人間性を公然と否定して恥じないような文化はない。恋愛禁止という日本のアイドル文化はカルト的とみなされている。

アイドルやスターは、若い人たちにはかり知れない影響力を与える。
みんなの憧れの存在が、人権を制約され、道具や機械のように扱われるとしたらどうだろうか。スターには、みんなの夢をかなえるような、これまでの枠を超えた自由な生き方をしてほしい、そうした自由なロールモデルの存在が、社会に大きなエネルギーを与えるはずだと思う。

SEALDs女子学生への罵詈雑言は許されない。

安保法制を通じて、SEALDsの皆さんの活躍が素晴らしいことについては、今さら言うまでもなく、私も彼らに感動し、リスペクトしてやまない者の一人だ。

なかでも、本当に若い女性たちがさっそうと発言して、行動してくれていて、その勇気が素晴らしい。

ところが、ここでも、女性であるが故なのか、セクハラ的、ヘイト的な罵詈雑言の標的に、男性以上に女性がなっているように見受けられる。
SEALDsの女子学生に対する罵詈雑言がTwitterという匿名性のある手段を用いて、匿名の人間からくりかえされているようだ。
以下に垣間見える、酷い内容。

https://twitter.com/QueenWaks

そして、それに対するリプライをめぐってまた非難が集中する。

洪水のような人権侵害に絶えない限り、若者が公然と権力に異議申立できない日本の状況は放置できないレベルだと思う。

例えば、「 首をつって死ね」などという言動があるが、こうした言動が直接向けられているのは明らかな犯罪である。
ほかにも、脅迫・名誉棄損・侮辱に該当する言動が繰り返されてる。公然と行われている犯罪の放置。警察は何してるのだろうか。厳正に取り締まるよう求めたい。

ご本人の意向はよくわからないのだが、市民社会としてもこういうことは許されないという声がもっとあがっていくべきではないか。

ヘイトスピーチと同じであるが、こんな奴らは無視して頑張れとか、あなたの言い方やアプローチにも落ち度があるんでは、とか、傍観者は言いがちである。
しかし、罵詈雑言受ける人たちの立場に立つと、そのような傍観者の心無い発言がどれだけ当事者を傷つけるか想像してほしい。無条件に、許さない、という怒りを共有して声を周囲から挙げていく必要があるかと思う。

声をあげた勇気ある人への攻撃を見て見ぬ振りする社会は最悪である。

2015年10月 2日 (金)

AV違約金訴訟・意に反して出演する義務ないとし請求棄却。被害から逃れる・被害をなくすため今必要なこと

■ 違約金の請求を認めず

2014年、アダルトビデオの出演を拒絶した女性が、所属プロダクションから金2400万円以上の違約金を請求される事件(原告・プロダクション、被告・女性 当職は被告代理人) が東京地方裁判所に提訴された。

私はこの女性が出演強要されて窮地に陥っている際から代理人として関わり、プロダクションからの訴訟に応訴し、法廷でAV強要の実態などを訴えてきた。

「AV出演を強要される被害が続出~ 女子大生が続々食い物になっています。安易に勧誘にのらず早めに相談を」

被害続く・AV出演を断った20歳の女性に芸能プロダクションが2460万円の違約金支払いを求め提訴。

と二回にわたり問題提起させていただいた。

本件について、今年9月9日に、原告・プロダクションの請求を棄却する判決が出された。判決は、原告が控訴しなかったため、9月25日に確定した。被害者は心から喜んでいる。

ネットでこの被害や裁判を知り、大きく関心を持っていただいた方々には本当に感謝したい。

■ 事案の概要

改めて説明するとこの事件では、以下のようなAV強要被害が発生した。


1 女性は、高校生当時、地元の駅の改札前でスカウトされ、原告のプロダクションにタレントとして所属することになった。当時、女性は普通のタレントだと信じ、水着程度のことはあるとしても、わいせつなことは想定していなかった。

2 しばらくしてプロダクションは、女性のマネジメント業務をブロダクションに委託する「営業委託契約」に署名捺印させた。そこには女性がマネジメント業務に協力しない場合違約金が発生すると書かれていた。契約書の内容は難しくて未成年の女性には理解できなかったが、プロダクションからろくな説明もなく親権者の同意もないまま、女性はサイン、最後まで契約書のコピーももらえなかった。

3  その後、女性が従事させられたタレント活動は、わいせつなものに終始した。プロダクションは製造会社との間で、女性に無断で仕事を入れてしまい、女性に選択の余地はなかった。女性は深く悩み、タレント活動を辞めたいと申し出たが、プロダクションの人間から、「契約した以上従う義務がある」「辞めれば100万円の違約金が発生する」「撮影に来なければ親に連絡する」等と脅され、さらに出演を強要された。ちなみに、未成年時はすべての報酬はプロダクションがとり、本人には一円も支払わずに性的搾取した。

4  女性が20歳になった後、プロダクションは、女性に一言の相談もなく、アダルトビデオへの出演を決定。

女性はこの時も、何度となくやめてほしいと述べたものの、指示に従わなければ違約金を支払うしかないと脅され、1本のAV撮影を強要された。撮影には詳細なシナリオはなく、現実には、衆人環視のもとで有無を言わさずに性行為を強要する性暴力である。周囲をスタッフに囲まれ、全裸であるため、嫌でも逃げ出すことができなかった。女性は、この撮影の1日目が終わった直後に2回目の契約書への署名捺印をさせられた。アダルトビデオの1本目の撮影はその後も続き、女性は膣に激痛を覚え、現場でそのことを訴えたが、何らの配慮もされず、撮影は強行された。

5  女性はこの撮影後、アダルトビデオはやめさせてほしい、と頼んだが、プロダクションは既にあと9本のアダルトビデオの撮影が決まっている、と告げ、「違約金は1000万円にのぼる」「9本撮影しないとやめられない」と脅迫した。女性は体調を崩し、「死にたい」と思い詰め、民間の支援団体に相談に駆け込み、そのアドバイスにより、契約を解除すると通告した。これに対し、プロダクションは脅したり実力を使い、さらに強要しようとしたが、強要できないとわかると、金2400万円以上の違約金を求め、提訴した。

■ 原告~ プロダクションは何を求めてきたのか。

原告が求めてきた金額は、2460万円。その根拠は

1) 被告が拒絶した9作品について、1作品220万円の本来得られたであろう利益 

合計1980万円

※プロダクションは制作会社との間で1作品300万円で女性を出演させる契約を、女性に無断で締結、そのうち、80万円だけを女性にわたし、残りの220万円は自分が取るともくろんでいたという。女性の拒絶により、その利益が得られなくなったとして請求

2) 撮影キャンセルに伴う損害         80万円

3) 売り込みのために要した経費        400万円

明らかに無茶苦茶な請求であるが、こういうことをするのはレアケースではない。法外な違約金を請求されて支払っている被害者もいるし、「こんなに支払えない」と怯えて、アダルト出演しか選択肢がないと考え、出演を続ける女性もいる。

若い女性が法的に知識が乏しく、周囲にも相談できない弱みにつけ込んでいるのだ。

元女優の穂花さんも自分のAV出演の経緯として、勝手に仕事を入れられ、嫌だと言うと高額な違約金をつきつけられたと明らかにしている。違約金は、AV強要の手段としてずっと横行してきたようだ。

ちなみにプロダクションの代理人は宮本智弁護士(第二東京弁護士会)。弁護士法一条「基本的人権擁護と社会正義の実現」を使命とする弁護士として、果たしてこのような請求・提訴は弁護士としてどうなのか、個人的には疑問である。

■ 裁判所の判断のポイント

以上の事実関係を前提に、東京地方裁判所は以下のとおり判決した。短い判決であるが、重要ポイントは以下のとおりである。

1. 雇用類似の契約

判決は、女性がどんな作品に出演するかは、女性の意思に関わらずプロダクションが決定してきたこと、女性が若年なのに、ブロダクションは多数のAV女優をマネジメントしてきたと考えられることなどをあげ、

これらの実情に照らすと、本件契約はいずれも、「原告が所属タレントないし所属AV女優として被告を抱え、原告の指示のもとに原告が決めたアダルトビデオ等に出演させることを内容とする『雇用類似の契約』であった。
としたのである。

※ 雇用契約となると民法の雇用および労働関係の法律が適用され、契約については、「やむを得ない事由」(民法628条)があれば即時解除することが出来ることになる。

2. 出演の強制は許されない。

次に、判決はアダルトビデオ出演という業務について以下のとおり判断した。


アダルトビデオへの出演は、原告が指定する男性と性行為等をすることを内容とするものであるから、出演者である被告の意に反してこれに従事させることが許されない性質のものといえる

これは当然と言えば当然のことであるが、改めて判決でこのように言い切った事例はやはり画期的である。

3. 意に反する以上、女性側から即時解除が可能。

そして判決は、


原告は、被告の意に反するにもかかわらず、被告のアダルトビデオへの出演を決定し、被告に対し、第2次契約に基づき、金1000万円という莫大な違約金がかかることを告げて、アダルトビデオの撮影に従事させようとした。したがって、被告には、このような原告との間の第2次契約を解除する『やむを得ない事由』があったといえる。

とする。実際女性は契約解除を通告したので、それ以降、いかなる債務も負わないので、いかなる債務不履行による賠償義務も女性にはない、と判断したのである。

■ 意に反してAVに出演させることは許されない。

当然と言えば当然であるが、判決では、性行為を内容とする業務は本人の意に反して従事させることはできない、と明確に述べている。

これからはもう、契約書をたてに、本人の意に反して、AV出演を強制することは許されない。場合によっては強要罪などの犯罪にもなるということをプロダクションは肝に銘じるべきだ。

そして、悩んでいる女性たちには、嫌ならいつでも、できるだけ早く、契約を解除してほしい。

マネージャーとのやりとりをLine(ライン)でしている場合、Lineに「AVはいやです。やりたくありません」と書いて送れば、「本人の意に反していた」ことの証明になる。簡単にできる。

そして、事務所のホームページで住所を調べてFAXや郵送で解除の意思表示をすれば、翌日から撮影現場に行く必要はない。

今回の女性は解除した後も実力で強要されそうになっており、業者が裏社会と関係がある場合もあるので、今回のように経験のある相談機関に相談し、弁護士にも入ってもらうほうが安全だ。しかし、相談機関にいかなくても、とにかく逃げて、Lineなどでもいいのですぐに「解除します」と連絡したほうがいい。

一度出演強要されてしまったビデオをすべて回収させるのはそんなに簡単ではないので、とにかく撮影現場にいかず、契約解除することである。

これまでいやいや何度も出演してしまったという人、最初はOKしたけれども次第にひどい内容の物にエスカレートしてしまい、もう耐えられない、という人も解除できる。

意に反して屈辱的な性行為を衆人環視で行わされ、それが広く流通する、そんなことは本来許されてよいはずはないのであり、是非勇気を出して抜け出してほしい。

■ これからの被害救済に向けて

今回のニュースに接した人から、「会社を訴えて損害賠償請求すべき」「プロダクション名を公表すべき」「刑事事件で立件すべき」というご意見をいただいている。私もそう思う。

しかし、本人は、自ら法的手段をとることやプロダクション名等を公表することで、自分のプライバシーが侵害されることをとても心配している。私たちも本人のプライバシーが侵害され、再び傷つけられる(セカンド・レイプ)ことがないよう、注意をして訴訟を行ってきたし、今回の訴訟については記録全部の閲覧謄写制限を裁判所が判断してくれている。

プロダクション名を公開するリスクは大きいし、本件としては「もう思い出したくない、そっとしてほしい」という想いである。

ひとたび性行為等の映像が流通してしまった女性の恐怖や屈辱は、経験した者でなければわからないであろう。

ただ、今後の同種事案では、警察には取り締まり強化を進めてほしいし、被害救済や再発防止に向けた取り組みが必要だ。

現在、芸能プロダクションには監督官庁がないため、違法行為が野放しになっているが、こうした状況は一刻も早く是正されるべきだ。

・労働者としての保護

まず、本件のような形態のAV女優とブロダクションの関係が雇用類似、としたことは大きい。女性は労働法規によって守られなければならず、労働者として保護されることになるからだ。労基署はプロダクションに対し、きちんとした監視の目を光らせてほしい。

暴力的な撮影で負傷したりPTSDを発症している女性も少なくなく、労災としての対応も必要だ。

・刑事処罰

これまで裁判例で、AVへの出演は、職業安定法及び労働者派遣法上の「公衆道徳上有害な業務」に該当するとされ、「募集」(職業安定法第63条第2号)及び「派遣」(労働者派遣法第58条)行為は、処罰の対象となっている(最近の職業安定法の有罪事例 ・平成8年11月26日東京地判(判例タイムズ942号261頁)、労働者派遣法の有罪事例・平成6年3月7日東京地裁判決(判例時報1530号、144頁)。

つまり、女性をプロダクションがAV女優に積極的に勧誘したり、制作会社に派遣すること自体が刑事罰の対象なのだ。

プロダクションはいま、こうした判例を受けて、雇用契約としての実態をカムフラージュするために、本件のように「委託契約」とか、よくわからない「芸能契約」「モデル契約」などに契約形態を変更して刑事罰を逃れようとしている。

しかし、雇用類似の実態があり、女優を指揮監督下においているケースにおいては、今回の判例と同様、実質的に判断して、刑事罰で摘発を進めるべきだ。

また、意に反する撮影を強要したり、本人がやめてほしいと言っても撮影を継続したり、さらには意に反する性行為を強要したり、暴力行為を行った場合は、強要罪、監禁罪、強姦罪、暴行・傷害などの罪で厳正に対処してほしい。

今回のケースでは、女性が警察に救いを求めたところ、警察が業者との間に入ったものの、「あと2本出演してはどうか」などと警察官自らが持ちかけてきた。警察はあくまで力づくで強要しようとするプロダクションを強要罪で逮捕するなどの厳正な対処をすべきであった。このような対応は今後到底許されない。

■ 法規制が必要。

AV被害は、法的知識に乏しい若い女性を、圧倒的な力関係の差のもと、囲いこみ、意に反する性行為を強要するという重大な人権侵害である。

見知らぬ人間との度重なる屈辱的な性行為を強要され、逃げ出すことは許されず、その一部始終が撮影され、著作権はメーカーに握られ、一生涯その映像がインターネット等を通じてどこまでも拡散し、誰にでも見られるのである。

途中でやめたいと思っても、それまでの出演を誰にも相談できず、女性たちは追い詰められていく。

莫大な違約金を支払わない限りやめることもできず、出演を強要される、まさに債務奴隷的な性的搾取の形態である。

こうした被害の陰で莫大な利益を手にする人たちがいるのだ。

AV女優のなかには、自分の意思で出演し、稼いでいる人もいるであろう。

しかし、本件のような強要の事例は、被害者に仮に迂闊な点があったとしても、若年層をターゲットとしたキャッチセールス等の消費者被害よりも、密室で行われるレイプ被害よりも、個人によって性的映像がばらまかれるリベンジポルノよりも、甚大な被害をともなう重大な人権侵害だと思う。

AV強要の手段のひとつが莫大な違約金による脅しであったが、これについては認められないことが明らかになった意義は大きい。

しかし、違約金以外にも、「親にばらす」などの脅迫や、自宅に押し掛けて監禁したりして強要したり、違約金を払わないなら販売を開始するという脅しはこれからもありうるだろう。

意に反する出演でもいったん流通に乗せられると、削除することはとても難しい。裁判所が事前差し止めを認める事例は極めて少なく、メーカーが弁護士介入により販売をやめるケースも多いとは言えない。

販売差し止めが認められずに、将来に絶望して、自殺した女性もいる。

契約の適正化や解除に関する明確な定めを置き、意に反する場合、販売差し止め・回収ができるようにし、監督官庁の設置や罰則も含めた法規制をし、今後の被害根絶をはかるべきだ。

既に消費者被害には消費者契約法、リベンジポルノには規制法があり、児童ポルノには児童ポルノ法があるが、AVに関しても規制立法の制定を望みたい。

意に反するビデオに関しては、裁判所が迅速に事前差し止めを命ずるよう、抜本的に認識を改めてもらいたい。

AVは、プロダクションのほか、いくつかの主要な製造メーカー、DMM・アマゾンも含む流通、レンタル、インターネット・サイトなど、様々な影響力の大きな企業が関わる一大産業となっている。

女性の人権を侵害する業務実態を知りつつこれを放置したまま関与を続け、利益を得ることは、企業の社会的責任に明らかに反する。AV強要に関与しないための業界ごとのルールや、企業ごとの人権指針の策定・救済方法の確立などの取り組みが進められていくべきだ。

多くの方にこれからの規制の動き、行政や関連企業の取り組みにも引き続き関心を持っていただけると嬉しい。(了)

参考  NHKニュースAV出演拒否で違約金迫られる被害相次ぐ

TBS 特集AV出演拒否した女性に違約金請求などのトラブル相次ぐ

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