ミリエル司教と「刑事贖罪寄付」
私が活動しているNGOヒューマンライツ・ナウでは、「刑事贖罪寄付」を受け付けています。
贖罪寄付とは、罪を犯した方が、贖罪の気持ちを示すために、示談などの代わりに寄付をする制度です。
ちょっとわかりにくいですが、こちらのページで受け付けております。
http://hrn.or.jp/bequeredempt/
そこで、私たちは贖罪寄付を受ける条件として以下のような定めをしています。
ヒューマンライツ・ナウは人権NGOとしてのポリシーに基づき、以下のご誓約をいただいた場合のみ、贖罪寄付を受けつけています。以下の三点について予め誓約いただくようお願いいたします。 •1. この贖罪寄付が、犯罪による収益の移転防止に関する法律に反する寄付ではなく、いわゆるマネーロンダリングを目的とするものではないこと •2. 贖罪の対象となる行為は、故意による殺人、女性、子どもおよび社会的弱者への暴力、性犯罪、虐待、搾取(経済的・性的)、人身取引等有害行為を構成する犯罪でないこと •3. 被疑者・被告人の方が、心より反省をしており、更生の意思を誓っていること
もし、これにあてはまらないと判断した場合は、残念ながらお断りすることもあります。
ところで、贖罪寄付について上記のような条件をつけているのは珍しく、条件をつけずに受け付ける団体がほとんどなんですね。
その一方、興味深いことに、ユニセフは贖罪寄付について全く違う以下のような態度をとっています。
http://www.unicef.or.jp/qa/qex01.html
刑事贖罪寄付とは、被害者が特定できない刑事事件や、被害者に対する示談ができない刑事事件などにおいて、被告人(被疑者)が反省し心を入れかえたことを表すための寄付です。そのような刑事贖罪寄付は、情状の資料として裁判所に評価されることが主たる目的で、「ユニセフの使命および子どもの利益」のためのご寄付とは異なると当協会は考えます。刑事裁判手続きが継続中であることが判明した場合、被告人またはその刑事弁護人からのご寄付のお申し出につきましては、ユニセフ募金としての受け取りを辞退させていただきます。(2006年現在)
なるほど。。。この違いはいったいどこから来るのでしょうか。
私たちは犯罪を犯して躓いてしまった人でも、社会の一員として、出来る限り更生し立ち直っていただきたいという想いを持っているからです。
特に私の個人的な思いとしては、「この時代、誰もが犯罪に転落しかねない厳しい社会に生きている。犯罪は社会を映す鏡。つまづいてしまった人が少しでも立ち直れるようにサポートしたい」という考えをもって、刑事弁護にも取り組んできました。
ここで言葉を尽くすよりも、是非
ミリエル司教
のことを思い出してほしいと思います。
ミリエル司教というのは実在の人物ではありませんが、ユーゴーの「レ・ミゼラブル」
の冒頭に出てきて、
「この燭台はあなたのものです」と、獄から脱走したうえに燭台を盗もうとしたジャンバルジャンに限りない慈愛を示し、彼の生き方を根底から変えた人物です。
一言でいうとそう、愛とは、生きる力、とても深い言葉ですね。
刑事裁判に携わる者の多くが、ミリエル司教のような役割をなにがしかでも果たせないかと思い続けているのだと私は信じています。
『水に落ちた犬は打て』とは失敗した人を徹底的に叩き、社会から排除・抹殺することです。
しかし、ひとたび過ちを犯したら、常に社会から排除され抹殺されるしかないのか、復活する機会がない社会でいいのか、そのことを考えてみたいのです。
反省の気持ちを示し、立ち直りたいと願う人、その門戸を閉ざすべきではない、と思います。
しかし、人権侵害行為を許す役割を果たすことはできない、ということで、私たちとしての基準を作っているのです。
このお話しはとても語りつくせないものがあります。
レミゼラブルを見たり、ちょっと違いますが、トルストイの「復活」などを読むと、涙を止めることがいつも難しい、この社会はいかに過酷であることか、弱者が踏みつけにされて救われないのか、そしてその多くの問題が今も解決されないまま、多くの人が苦しんでいることを思わずにはいられません。
それでも人々は、前を向いて、よりよく生きようと、人生の戦いを続けているのです。
最近も一件贖罪寄付をお受けいたしました。
被告人の方にはどうか犯した罪に真摯に向き合って反省してほしい、そして、いつか是非立ち直っていただきたい、新しい人生をやり直す一助となれたら、と願わずにはいられません。
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