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2015年1月10日 (土)

フランスの襲撃事件を受けて、私たちが改めて考えるべきこと

風刺画が売り物の仏週刊新聞「シャルリー・エブド」を襲撃して記者ら12人を殺害し逃亡していた容疑者とみられる2人が9日朝、パリ郊外の工場で人質をとって立てこもった。当局は同日夕になって突入した。AFP通信は、2人は殺害され、人質は解放されたと伝えた。
http://www.asahi.com/articles/ASH195VX4H19UHBI025.html

ムハンマドの風刺画など、イスラムの尊厳を傷つけるような風刺画が話題を呼んでいた新聞社だ。
このような表現の自由を攻撃するテロは当然許せないことだ。
各国政府はこれを糾弾し、フランスでは表現の自由を守れという大集会が起きたという。


しかし、この事件を取り巻く背景を考えると、とても複雑な事情がからみあう。
現代社会はどんどん複雑化している。
「表現の自由を守れ」だけのキャンペーンで解決する問題ではない、分断された社会でどう人々の信頼を再構築していくのか、一朝一夕ではなかなか進まない問題が横たわっている。

自由・平等・博愛の国・フランス。言葉では言い尽くせないほど私が憧れたことのある国だ。
語りつくせないほど。

しかし、貧困化が進み、移民に対する差別も多く、自由・平等・博愛に強い嫌悪感を持つ若い世代が増えているという。
そんななか、フランスでは、ISに参加する若者たちが増えている。
これに対抗し、フランスは極めて強いテロ対策法をつくり、当局の権限は拡大し、薄弱な証拠による有罪判決で投獄される人が増えている。
フランスでは、ムハンマドの風刺画が「表現の自由」として保護される一方、女性が学校等で、伝統的な被り物であるヘジャブ・ブルカ等を着用することは禁止される。

表現の自由のルールは、イスラムの人たちにとっては『勝てないルールによる際限なく続くゲーム』のようなものだったのではないだろうか。

そして、「テロは許せない」「暴力に抗議する」と言うフランス自身が、現在はISに対する軍事行動に直接参加しているのだ。

フランスは、2003年にはイラク戦争に反対する国連安保理での議論が世界に支持されたが、最近は「人権」などの名目で、積極的に海外での軍事行動を進める立場をとっている。この転換はいつからだっただろうか。
旧宗主国からの「要請」に基づく安保理決議を経ない軍事行動は増えているがそれだけではない。
過去にも、最終的には武力行使に踏み切らなかった事態でも、フランスが武力行使に積極的な立場から強い意見を表明した事態(オバマ政権よりも強硬に)が少なくない。
背後には帝国主義的な思惑があるが、錦の御旗はいつも「人権」という人道的帝国主義を進めてきたように思う。

自由・平等・博愛が色あせている。

今回の事態が、さらなる強硬なテロ対策、ムスリムへの憎悪・報復が高まることによるフランス社会とムスリムの対立の激化が憂慮される。

表現の自由を守ること、テロによる民間人犠牲を許さない、それ自体はそのとおりだが、フランス的価値を全面に出したそのような一面の対策だけでは十分でない。少数派であるムスリムの人権と尊厳の確保、差別と報復の防止、テロ対策による人権抑圧の見直しなど、フランスが取り組むべき課題は多い。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、以下の見解を出している。
シャルリー・エブド紙殺害事件には人権擁護で対応すべき

英語オリジナル: http://www.hrw.org/news/2015/01/08/france-attack-free-expression
日本語リリース: http://www.hrw.org/node/131762

私もこの趣旨に賛同する。
ただ、こうした視点に加えてもっと考えてみなければならない問題がある。

六辻氏の
「フランスの新聞社襲撃事件から「表現の自由」の二面性を考える-サイード『イスラム報道』を読み返す」

http://bylines.news.yahoo.co.jp/mutsujishoji/20150109-00042123/

に重要な指摘がある。

改めて、エドワード・サイードが、「オリエンタリズム」などで提起した問題の意味をかみしめたい。

自分自身へのたくさんの自戒もこめて。

これは、単にフランス一国の問題ではない、日本を含む多くの国が同じ問題に直面している。
私たちは今、もっともっと考えなければならないのだ。


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