歴史的な瞬間・ミャンマーで人権教育をスタート
2月14日、再び大雪の中成田空港に向かい、15日にミャンマー・ヤンゴンに到着。
それから、21日までヤンゴンに滞在しました。
ヤンゴン弁護士会とヒューマンライツ・ナウが提携して、人権教育を行うことになったものです。
実はミャンマーには国の弁護士会のようなものはなく、地域の弁護士の集まりも軍事政権下で非合法化されていたわけですが、ヤンゴンに「弁護士会」という組織があり、ヤンゴンを越えて全国3000人くらいの弁護士さんが加入しており、最近の民主化を受けて今後は旺盛に活動を進めていく予定だそうです(国の弁護士会も設立の方向だとのこと)。日本では想像もつかない話ですが、厳しい時代を耐えぬいた弁護士の皆さんには尊敬の念を覚えざるを得ません。
今回、ヤンゴン弁護士会の若手弁護士にイニシアティブで実現した企画で、四日間の連続セミナーに約100人の弁護士さんが登録され、老若男女問わず、なんと初めて「世界人権宣言」(1948年に世界の人々が等しく保障される人権を国連総会が宣言したもの。人権の基本文書)を勉強されました。
このようなことは軍事政権時代は許されなかったので、みなさん初めて「人権」に触れる機会となりました。
歴史的な瞬間に立ち会うことが出来て、大変感激しました。
民主化が進み、「人権」という言葉がストリートでも聞かれるようになったミャンマーですが、実は人権の担い手である弁護士さんたちの間での人権に関する正確な知識はほとんどありません。
これまで人権について教育する機会はなく、そもそも人権について語ること自体、大変危険なことであり、逮捕、処罰される危険があったのです。
そして、そもそも、軍政の許可のない団体は非合法とされていましたので、弁護士会自体が非合法ということを余儀なくされていたのです。
ところがようやく、弁護士会も活性化し、人権活動にも踏み出すことができるようになったのです。
今回は、4日間、世界人権宣言と、国連人権メカニズムの活用についてトレーニングをしたのですが、
「どのような権利が国際的に保障されているのか」
「それぞれの人権の意味、内実は?」
「政府はどんな責任を負うのか」
「人権制約はどこまで可能か、どういう場合に許されないのか」
ということが、きちんと法的な意味で正確に理解されていないまま、日常的に続く人権侵害に多くの弁護士さんが立ち向かっている現状を垣間見ることが出来ました。
これからアウンサンスーチーさんと打ち合わせなのよ、と言って退席される年配のNLDの女性弁護士さんもいました。また現在、深刻な人権侵害が続いているラカイン州からもわざわざ数人の弁護士さんが参加されていたことにも、感激しました。
憲法が人権をきちんと保障していない国、ミャンマーで、みなさんが国際人権法の正確な知識を得て、それを使って、是非人権を前に進めてほしい、と願うばかりで、私たちの教育活動の責任を強く感じました。
この講座、現実に法廷活動で忙しい弁護士さんにあわせて、午前に三時間、午後に三時間、それぞれ同じ講義を繰り返して4講座ずつ行い、 午前か午後のクラスに出席してもらう形で開催し、講師の私と通訳さんは、6時間講義を続けて大変でしたけれど、弁護士の皆さんには参加しやすいやり方だったようです。
皆さんには有益だったと言っていただきましたが、4日では当然十分ではありません。
今後も継続して人権教育を進めていく予定です。
また、ヤンゴン以外ではまだ弁護士さんたちは萎縮している状況で自由に人権を学べる環境ではないようです。なんとかそうした事態も改善していきたいと思いますし、若者、女性、少数民族の方々の間にもトレーニングのニーズがあるので、是非応えていきたいと思います。
こちら講義の様子。
私たち、ヒューマンライツ・ナウでは、事実調査、アドボカシー活動等と併せて、エンパワーメント、つまり草の根レベルの人権教育活動やキャパシティ・ビルディングを大変重視しています。
というのも、国連決議などで国際的プレッシャーをかけて人権状況を改善させることは、国際人権NGOの一つのセオリー・戦略ですが、外圧だけではものごとは変わらないし定着しません。
地元で暮らす人たちこそ、人権状況を変える担い手である、と考えているからです。
こうした活動、ミャンマーに限らず、人権侵害による困難を抱える地域で展開しています。
ミャンマー国内では長年にわたり人権について語るのも許されなかったことから、タイでトレーニングを続けてきましたが、今後はミャンマー国内に軸足を移していきます。
ところで、日本はミャンマーの人権・民主化を後押しするという政策をとっていると内外で公表していますが、その実、ほとんどが経済連携と取引関係法整備で、教育とか、人権・民主化そのものに対する支援はほとんどなく、そこは欧米諸国との明白な違いとなっています。是非、人権・民主化の担い手を支援する政策をきちんと立案・実施してほしいものです。
NGO団体からは日本政府への期待をあちこちで聞きましたが、期待されているうちが花と言えるでしょう。
ところで、私が教えた世界人権宣言はこちら。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/udhr/1b_002.html
世界人権宣言のひとつひとつの条項についてミャンマーの皆さんに説明していると、日本では大丈夫? という思いに改めて直面します。
空気のようにあたりまえの人権、でも徐々に浸食されていないでしょうか。
人権や過去の人権侵害に関する認識をめぐるいまの状況はとても危ういものを感じます。
日本でも人権を担う担い手(市民一人ひとり)が油断すると権利はいつのまにか浸食されていきます。
是非みなさんも一度、または改めて、読んでみていただけると嬉しいです。
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