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2013年11月19日 (火)

知る権利・民主主義を損なう「特定秘密保護法案」をもっと知ってほしい。

いま議論になっている「特定秘密保護法案」(正式名称・特定秘密の保護に関する法律案)。忙しいビジネスパーソンが、世間で話題になっているからと言って、法律案を読む時間等なかなかないと思います。

しかし、この法案、万一でも法律になってしまったら、知る権利にとっても、報道・言論の自由や市民の様々な活動にとっても、ひいては民主主義にとっても、非常に危険です。今後の日本社会のあり方に関わる重大な問題を含んでいるので、是非良く知っていただきたいと思います。

法案の条文は、こちらから、「閣法の一覧」というところの表を見ると法案全部が読めます。

http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_gian.htm

私自身、あまりにひどい条文に絶句しました。

そこで、まだあまりこの問題をフォローされていない方にも知っていただきたく、問題となるポイントのうち、特に危険な点をあげて解説してみたいと思います。

1 秘密の範囲が広すぎ、濫用の危険大。

「秘密」として指定される情報は、防衛、外交、特定有害活動、テロという四分野の情報。「別表」というところに、事細かに該当する情報が列挙されているが、その対象範囲は実に広範で曖昧である。この四分野にあてはまりうる、極めて幅広い情報が「秘密」にされかねない。

例えば、「防衛」に関しては、「自衛隊の運用」「防衛力の整備に関する見積り若しくは計画又は研究」「武器、弾薬、航空機その他の防衛の用に供する物の種類又は数量」は全部秘密にできる。

極端な話、政府が極秘に核開発・核配備をしても、これでは公開されない。自衛隊が憲法違反の活動を海外でしていても、そうした監視もできなくなる。イラク戦争の際には、人道支援の名目で派遣された自衛隊機が、武装米兵を輸送していたことが判明し、憲法違反との判決が出された。しかし、今後はそのような情報も「秘密」指定され、市民のモニタリングや情報収集が処罰対象になりかねない。

また、今回の秘密保護法制定の裏には、日米の武器共同開発に関連して武器に関するすべての事項を秘密にしておきたい、という思惑があるという指摘がある。日米が非人道的な兵器を共同開発し、日本がこれを輸出するような事態になっても、何らチェックが出来ないことになりかねない。

「外交」については、外交交渉のうち、「安全保障上重要なもの」はなんでも秘密指定されうる。政府答弁によれば、TPP交渉もここに含まれることは否定できないそうだ。政府答弁によれば、「安全保障の概念は時代によって変わる」そうで、明確に定義できないそうだ。何が秘密に指定されるか全然わからない。

また、「テロ」はテロ防止のための措置やその計画はすべて含まれる。「対テロ戦争」の名目に戦争や盗聴あらゆる対策が、時に違法に行われ、人権侵害を拡大させているのが世界の現状だが、こうしたテロ対策はなんでも秘密となりうる。また、原発関連も「テロ」に含まれるというのであり、原発の設計・構造・安全性なども「テロ対策」ということで、秘密に指定されてしまう危険性が高いのだ。

要するに、軍事・外交・テロ対策という、国の最も重要な問題に関するほとんどの情報が「秘密」となりかねない。これでは、公益に関わる多くの情報から国民が遠ざけられ、「知る権利」が侵害される危険性が極めて高い。

2 秘密指定に何らのチェック機能も民主的コントロールも働いていないこと。

特定秘密の指定は「行政機関の長」の独断で行うことができる(3条)とされ、第三者機関や国会による民主的コントロールやチェック機能は皆無だ。

そして、「必要があると認めたとき」には「行政機関の長」が他の行政機関や外国に提供できることになっている(6条、9条)。秘密と指定する期間は5年以内とされるが、延長もできる。延長についてもまともなチェック機能はない。

法案の18条は、秘密指定についての統一基準を定めるとしている。しかし、仮に基準が出来ても、それが現実にあてはめられて適正に運用されているか、第三者機関がチェックできないので、あまり意味がない。基準を決めるには、有識者の意見を聞くというが、国民の代表者でなく政府が選ぶ有識者ということでよいのか。また御用学者のオンパレードになる危険性は高い。

秘密について第三者機関がきちんとチェックする仕組みがないのは極めて危険である。

3 内部告発者を保護するセーフガードになり得ない。

私が特に問題だと思うのは、国の不正行為を公にする、「内部告発者」の活動も処罰対象となることだ。公務員などが、役所で不正行為が行われていることについて義憤に駆られ、リークをする内部告発はこれまでもあったが、これからは許されないことになる。

例えば、米国政府が違法な盗聴をしていたことを世界に伝えるという行動をとったエドワード・スノーデン氏のような人が日本に出現したら、秘密保護法のもとでは処罰対象になってしまう。

日本には、公益通報者保護法(http://www.caa.go.jp/seikatsu/koueki/gaiyo/jobun.html)という法律があり、通報者を解雇等の不利益処分から守るという規定を置いている。しかし、犯罪行為に該当する場合の刑事訴追を想定して通報者を保護するものではない。また、この法律では、保護すべき通報対象事実については、法令違反が列挙されているが、現行法が想定・明示的に規制しない権力犯罪や政府の不正、人権侵害行為等に関する公益通報は対象外なのだ。政府や官僚がいくら国益に反すること、市民の権利を害することたくらみ、実行しても、私たちは知ることが出来ないし、内部告発も抑圧される、ということになる。

4 非常に危険な「共謀、教唆、扇動」罪

秘密保護法案で、非常に危険だ、と思うのは、秘密漏えいを「共謀し、教唆し、又は煽動した者は、五年以下の懲役に処する」(24条)という規定である。これは、仮に秘密が漏れていなくても、秘密漏えいを誘発するような行為は処罰する、というもので、相当危険である。

これは報道機関から、報道の自由を脅かすものだ、ということで厳しい反発が生まれている。それだけではない。情報提供を呼びかけること、政府の行為をモニタリングしたり、情報取得について市民団体の仲間内で打合せしただけで、実際に何の情報漏れがなくても逮捕・処罰されてしまう。

法案には、「この法律の適用に当たっては、これを拡張して解釈して、国民の基本的人権を不当に侵害するようなことがあってはならず、国民の知る権利の保障に資する報道又は取材の自由に十分に配慮しなければならない。」「出版又は報道の業務に従事する者の取材行為については、専ら公益を図る目的を有し、かつ、法令違反又は著しく不当な方法によるものと認められない限りは、これを正当な業務による行為とするものとする。」(21条)という規定がある。しかし「雑則」という項目におかれていて、訓示規定に過ぎない。「出版又は報道の業務に従事する者」とは誰かも不明確であり、捜査権限の濫用への明確な歯止め・セーフガードには、まったくなり得ない。それに、フリージャーナリストや、私たちのように政策提言・モニタリングを行うNGOの活動、市民による監視活動やオンブズマンは、この規定では保護されない。

5 メディアへの影響は深刻

今回のことで、一番危機感を抱くべきはまず報道機関であろう。夜討ち朝駆けで政府関係者から情報を取ろうとする行為も、すこしでも行き過ぎがあれば、処罰の対象となりかねない。

また、極秘情報が政府関係者からもたらされた場合にそれを報道した場合、何が起きるかわからない。例えばある記者が公務員からのリーク情報を受け取ってそれを新聞に掲載したとする。リークした公務員は、秘密保護法に違反するわけであるから、誰から情報が来たか調べるため、記者のパソコンを押収するなど新聞社に捜索が入りかねない。記者も誰からの情報提供か事情聴取を受けるであろう。新聞社への捜索は、言論弾圧の口実として使われる可能性もあり、相当な委縮効果をメディアに与えるだろう。メディアが最も守るべき、「取材源秘匿」もできなくなろう(ちなみに森担当大臣は報道機関に強制捜査はないと答弁したが、谷垣法相、古屋国家公安委員長はその可能性を否定していない。http://news.tv-asahi.co.jp/news_politics/articles/000015864.html)。

また、こうしたリーク情報について、記者が「教唆・共謀・煽動」したという疑いをかけて逮捕・訴追することもできることになるのだ。現在、ニューヨークタイムズやイギリス・ガーディアン紙は、スノーデン氏のリークした情報やウィキリークスが流す情報を頻繁に紙面で報道しており、何らかの提携関係があると考えられている。秘密保護法案がもしこのような場合に適用されるとすれば、提携を疑われる新聞社に強制捜査がおよび、記者が「教唆・共謀・煽動」容疑で訴追・処罰されかねない。これではスクープなどとれなくなる。メディアはもっともっと危機感を持つべきだ。21条のようなあいまいな規定で誤魔化されてはいけないと思う。

6 国会や裁判所にも開示されない証拠

国会議員も、もっと危機感を持つべきであろう。

法案は、ひとたび秘密と指定された情報について、裁判所や国会に対してほとんど開示しないと定めている。裁判所や国会には、「我が国の安全保障に著しい支障を及すおそれがないと認めたとき」でない限り提供できないとされる(10条)。

そもそも法案によれば、ある情報が「秘密」と指定されるのは、公開することによって安全保障に著しい支障を及ぼすおそれがある場合だ、とされているのであり、裁判所や国会にどんなかたちなら提供できるのか、はなはだ疑問だ。

国会については、衆参各議院又は各議院の委員会もしくは参議院の調査会が行う審査又は調査で、議院及び委員会が秘密会とされる場合でないと秘密は開示されないとされ、個々の議員の国政調査権に基づいて秘密が開示されることはない。

与党議員であっても、政務三役でなければ重要な事実から蚊帳の外となる。

裁判所では、「裁判官限りで秘密を見る」という「インカメラ」という手続きしか想定されていない。

このようなあり方では、国会・裁判所も知らないまま、政府や官僚が独走し、特に軍事・外交部門で国にとって重要な決定が、国民や国会議員の知らない間になされてしまう可能性が高いのである。

その一方、おかしなことに、外国には、行政の長の判断で緩やかに情報提供ができるという。外国とはもちろん同盟国・アメリカということになるだろう。

福島第一原発事故後、SPEEDIに関する放射性物質拡散予測の情報は、市民には全く知らされず、官邸トップにすら知らされず、その一方で米軍には速やかに提供されていた。その間、周辺住民の多くが、危険性や、放射能の拡散方向を知らされることなく、高い線量に晒された。これからも同じようなことが恒常的に発生し、市民の生存や健康が危機に晒される可能性がある。

7 適格性審査

法案では、秘密を取り扱う人間について、適正を審査するとして、その前提として、配偶者、父母、兄弟、同居人のプライバシーを綿密に調査すると規定している。秘密に関連する公務員や民間業者は深刻なプライバシー侵害を甘受しなければ仕事を奪われることになる。

8 民主主義が危ない。

「秘密」が増えてそこにアクセスすると市民も処罰される、という法制のもとでは、国・特に官僚が勝手なことをやりかねない。

国が勝手に秘密を指定する。そして政府首脳と官僚だけで独走して、秘密裏にいろんなことを進める。

その秘密に近づこうとすると、処罰される。「みなさんには秘密にします、だけど信じてください」と言われて、私たち主権者はただ国を信じてついていくほかにないのか。それでは主権者による民主的なコントロールはできなくなる。

行政を市民がモニタリングし、チェックをし、暴走を抑えるのは民主主義の基本である。この法案が通ってしまえば、民主主義は本当に危うい。

9 ひとりひとりが危機感を

このように、この法案には、生半可な修正協議では到底済まされない問題があまりにも多すぎる。

そもそも、現在も、日本には秘密保護の法制度は存在する。国家公務員法、地方公務員法、自衛隊法には秘密漏えいに関する罰則があるのだ。これを越えて、処罰範囲を拡大し、厳罰化をする必要性や、現行法では十分でないという立法事実を政府は明確に示していない。

本法案は、国家安全保障と情報への権利に関する国際原則(ツワネ原則)という国際基準から見ても、著しく問題がある法律である。

(同原則については、こちらのウェブサイトが今のところ詳しい。http://peacephilosophy.blogspot.jp/2013/09/global-principles-on-national-security.html)

ニューヨーク・タイムズ紙や日本の外国特派員協会はじめ、諸外国の報道機関も一斉に懸念を示しているのは、当然と言える。

まずは、根本的に考え直すべきであり、廃案にすべきだと考える。

国民の知る権利や言論の自由、民主主義の根幹に関わる問題なのであるから、もっと私たち一人一人の主権者が危機感を持って意見表明をしていく必要があると思う。

※ 本法案に対しては、日本のNGO約100団体が共同して「制定しないことを求める」要請書を安倍首相に送りました。

http://www.janic.org/news/ngo_81.php

本投稿の1~9は、この共同行動の記者会見での私の報告をもとに書いたものです。

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