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2013年9月

2013年9月30日 (月)

シリア 安保理決議2118と今後の国際社会の課題

シリア情勢をめぐって、注目すべき世界の変化

9月27日、国連はシリア問題に関し、安保理決議2118を採択した。
米ロがシリアの化学兵器を国際管理下で管理させる安保理決議について合意したのだ。
思えば、今年8月末頃は、国連安保理等全く無視して、米国・英国・フランスら大国が武力行使にひた走るのを誰もが止められないのではないか、と思われたが、そのような最悪の事態を迎えることは当面回避された。

この間、1カ月で世界に起きたこと、それは、非常に注目すべき重要な展開であった。
8月下旬ごろ、米英仏の首脳らは、独自の「インテリジェンス」により、シリア政府が化学兵器を使用したと断定、しかしその証拠は機密情報が含まれるからということで世界に向けても国内に向けても全く公表せず、国連安保理での議論も回避し、国連の調査も終わらないまま、軍事行動をしようとしていた。
しかし、こうしたやり方に違和感を持つ市民の声は強かった。
まずはイギリス世論の強い反対を受けて、イギリス議会が軍事行動の承認を否決し、米国らによる単独行動主義のシナリオは大きく狂った。米国首脳も慎重にならざるを得なくなり、オバマ大統領は議会承認を求めることを決定する。
米国でも反対世論が賛成世論を上回り、強行姿勢を続けてきたフランスでも反対世論が賛成世論を上回る一方、9月初旬のG20でも、ロシアの外交攻勢があったなかで、国際社会として軍事介入への反対・慎重論が多数を占める状況が浮き彫りになった。BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)は軍事介入反対で結束し、声明を公表している。
結局、米国は単独軍事介入のリスクが大きいと判断せざるを得ず、紛争に至らない国際合意の形成に汗をかき、ロシアとの交渉の結果、化学兵器管理の合意ができ、軍事介入が回避された。
今回の事態は、世界の市民の声や周辺国の声が大国の暴走にストップをかけることが出来ることを示したものとして注目すべきである。
対テロ戦争後、ますます諜報・軍事機密が幅を利かせ、市民の意向を反映しない政府トップによる軍事行動が拡大してきたが、今回の出来事は、そうした流れに確実な歯止めをかけることとなった。
こうした流れの背景には、誤った戦争が甚大な被害と禍根を残したイラク戦争の教訓と反省があることは間違いない。超大国の政権がイラク戦争にも懲りず、誤った歴史を繰り返そうとしても、世界の市民は戦争の惨禍を忘れなかったのだ。
民主主義によって政府の戦争行動をコントロールし、多国間外交で超大国を孤立化させるなかで、戦争に歯止めをかけられる、世界の国々や人々の声が超大国の一方的な軍事行動にストップをかける力を持ちうる、ということを今回の推移は示したのであり、その意義は計り知れないほど大きいと私は思う。

シリア・安保理決議後の課題
こうして、9月27日に採択された安保理であるが、その内容には、大きな限界があり、課題を残すものとなっている。
冷静に考えてみると、米ロ等がこの間、汗をかいたのは紛争回避と化学兵器問題だけであり、介入という最悪の結果は回避されたものの、シリア内戦をめぐる問題はひとつも解決していないのである。
安保理決議の焦点は、化学兵器に絞られており、2年以上続き、今も多くの人命が日々犠牲になっているシリア内戦を終結に導く道筋を全く示せていないのだ。
そもそも、米オバマ大統領が化学兵器のみを取り出して、これを軍事介入の「レッドライン」と位置づけたことに問題があった。
化学兵器使用はあまりに残虐であるが、それは内戦で日々行われる攻撃の一つに過ぎない。
化学兵器が仮に使用されなくても、民間施設は連日のように攻撃され、民間人は日々命を落としている。内戦そのものを終結させ、戦争犯罪・人道に対する罪を構成する違法な軍事行動をやめさせるための国際社会の行動が求められている。
今、まず必要なのは、国連として和平交渉を真剣に進めること、トップレベルが真剣な交渉に乗り出すことである。
そして安保理は、紛争の両当事者に武器・軍事援助をすることをすべての国連加盟国に禁じるべきである。
武器・軍事援助を周囲が続ける限り、内戦は終結のしようがないのだから。
また、安保理は、シリアで生じているすべての戦争犯罪、人道に対する罪について、これ以上不処罰としないため、シリアの事態を国際刑事裁判所に付託すべきである。
確かに、これらのコンセンサスを安保理で得るのには困難を伴うかもしれない。
しかし、化学兵器だけは使用しないが他の残虐行為は全く放任、というのは偽善というほかない。
今回の安保理決議はハイレベルの真剣な交渉があって初めて実現したが、化学兵器・軍事行動かその回避か
については最大級の政治力がハイレベルで投入されたのに比較して、シリア内戦終結についても同じくらいの
ハイレベルの真剣な協議がなされるべきだ、いや、2年前からそうすべきだった。

国連憲章7章の強制措置の現状と課題

今回の安保理決議はシリアに違反があった場合、国連憲章7章上の措置を取る、と明記した。
しかし、実際に憲章7章上の措置を取るには再度の安保理決議が必要だ、とされている。
米国は決議2118に「違反の場合は憲章7章上の措置がとれる」と明記することを求めたが、ロシアは譲らなかった。
ロシアにはシリア問題に関する独自の国益と思惑があるものの、一方で、ロシアが、憲章7章の運用に関する現状に対する多くの国の強い懸念を代表するかたちになっていることも指摘できる。
国連憲章7章は、安保理が「平和に対する脅威、平和の破壊又は侵略行為の存在を決定(憲章39条)した場合、経済制裁等の非軍事的な強制措置(41条)または、それでは不十分と判断した場合には軍事的な措置(42条)がとれると規定している。
非軍事的な強制措置ならまだしも、軍事的な措置というのは重大である。
この軍事的な措置、そもそもは国連軍のような組織が行うのが想定されていたが、今では有志で構成される多国籍軍に授権するのが通例となってしまっている。そして憲章42条の措置にゴーインを出す国連安保理決議と言うのは、通常単に「あらゆる措置(All necessary measure)をとることができる」という一文が決議に盛り込まれるだけであり、非軍事的な対応にいつ見切りをつけて軍事作戦を始めるのか、指揮官は誰か、戦闘の期間や作戦行動の内容、地域等は、多国籍軍に白紙委任となっている。そして結局多国籍軍の中核は米軍・NATO軍等によって行われる。戦争犯罪や人権侵害、民間人の犠牲を少なくするための歯止めや、そのための監視機関はない。いったん多国籍軍に授権すると、国連として多国籍軍の軍事作戦に対してはノー・コントロールなのである。
このような、多国籍軍に白紙委任の軍事行動が深刻な事態を引き起こしたのが、近年ではリビアであり、「人命保護のためにあらゆる措置をとる」と決議した国連安保理決議を受けて、米国・NATOらが軍事行動を開始。ところが、民間人の保護ではなく、カダフィ政権打倒のために、反政府勢力側を支援して軍事作戦を展開、NATO軍の空爆により、多くの民間人が殺害され、反政府勢力による人権侵害・戦争犯罪行為も横行し、最後はカダフィを残虐なかたちで超法規的に殺害をして終わる、という結末を迎えた。
このような軍事行動のあり方は、リビアの人命保護という安保理決議の枠組みを逸脱しているが、国連側は誰もコントロールできなかったのだ。
未だにこの件について国連自身もきちんとした総括をしていない。イラク戦争でも、米軍等の占領とそれにともなう「あらゆる措置」については、安保理決議の承認を受けているが、この国連に承認された占領下で、米軍による民間人殺害は続いてきた。こうした、安保理決議の名のもとに行われる軍事行動による民間人の殺害や人権侵害の深刻な状況、そしてその総括も全くなされていないことが、世界の国々をして、憲章7章の発動への指示をためらわせているのだ。

ロシアや中国が、憲章7章の発動を伴う安保理決議の採択に反対する事態はしばしば「安保理の機能不全」と形容され、国際社会の深刻な問題となっているが、では、憲章7章をめぐる問題に目をつぶって安保理がどんどん強制措置・軍事措置を発動すればいいのか、というとそうではないはずだ。

他方、国際刑事裁判所の訴追に関しても、国際刑事裁判所に関する条約(ローマ規程)の締約国でない国で発生した事態について、国際刑事裁判所が管轄権を行使するには安保理決議による「付託」(referral)が必要とされ、この「付託」は憲章7章に基づく措置としてなされる。
ひとたび憲章7章の事態と認定されると、いつ軍事介入が起きるかわからない、土俵際に追い詰められたような事態となるわけであるから、軍事介入を懸念する国は、憲章7章上のいかなる措置の発動にも躊躇し、慎重になる。国際刑事裁判所の付託も然り、武器禁輸も経済制裁も然りである。
私は、国際刑事裁判所付託については、一国内の深刻な人権侵害でも認められるべきであり、武器禁輸は、憲章7章の軍事的措置を認めるべきでない内戦においても認めるべきであると考えているが、軍事介入はこうした手段を尽くして万策尽きた時に検討すべきだと考えている。
国際刑事裁判所付託は、憲章7章よりも緩和された要件で認めるものとし、憲章7章の事態においては、非軍事措置が認められるべき場合と、軍事的措置が認められるべき場合とで、後者の要件をより厳格にする等、安保理決議の検証と改革が必要だと考えている。
そして、仮にどうしても軍事措置が必要な極限的事態であっても、国連が明確なコントロールを及ぼし得る体制とし(本来授権でなく国連軍であるべきである)、決議で詳細な限界を規定すべきだと考える。
こうした本質的な議論がなく、場当たり的に危機が起きるたびに「あらゆる措置をとる」という決議を漫然と国連安保理は採択し続けてきたのであるが、一度立ち戻ってよく考えてほしい。
憲章7章に関する問題をきちんと整理しないと、安保理の機能不全は解決せず、非軍事的措置をフレキシブルにタイムリーに発動することもできず、事態を深刻化させるだけであろう。

保護する責任・人道的介入に関する検証

シリア内戦では、「人道的介入」の是非がかつてなく問われている。
これほどまでに人々が内戦で殺戮されているのに国際社会は何もできないのか、というフラストレーションがあるなか、理論的には、近年国際社会で議論が進んでいる「保護する責任」(Responsibility to Protect)論をバックグラウンドとしている。
「保護する責任」とは、本来国家が人々の権利を保護しているが、その国が人権擁護の責任を果たさず、かえって重大な人権侵害を犯している場合、国際社会が代わりに人々を保護する責任を果たすべきであり、国家主権に優先して介入を認める、という考え方である。「介入」には様々な形態があるものの、当然軍事力の行使が含まれると考えられている。
旧ユーゴへの「人道的介入」は、国連決議を経ずになされた介入だったが、リビアでは、カダフィが反政府デモに空爆で応じ、自国民を殺害するという事態に及んで、安保理決議が採択された。しかし、このリビア介入は前述の通り、人々を保護する、という点では大きな禍根を残す結果となった。
今回、G20諸国の多くが軍事行動に反対し、米英仏の世論も軍事行動に反対している状況をみるなら、国連や国際法学者等、国連界隈の人々の「保護する責任論」への盛り上がりと、世界の人々の間に大きな温度差があり、多くの指示を得られていないことも明らかになってきた。
保護する責任論は、どうしても、人権侵害をなくすために最も強力な介入の方法~軍事介入を求める方向に流れやすいが、残念ながら軍事行動の一歩手前の様々な努力、国連や各国が介入の前になしうる手段について、十分な検討がなされ、実際に真剣な努力がされているとは言い難い。
しかし、軍事介入はそれ自体多大な死傷者を出し人権侵害を生み出す多大な危険性をはらんでいるものであり、最も破壊的・強力な手段ではあっても人権擁護のために最も効果的な手段とはいえないと私は考えている。
私たち国際人権NGOも、人権侵害について声をあげ、国連の効果的な対応を求めるわけだが、それが最終的に軍事行動に結びついて多数の犠牲を出す結果につながりかねないという深刻なジレンマを抱えている。
本当に人権を守るための軍事介入はいかなる効果をあげたのか、いかなるポジティブな変化をもたらしたのか、いかなるネガティブな影響を与えたのか、他に変わりうる手段として何があるのか、について、緻密な検証と議論が求められている。
2004年に緒方貞子さんも参加し、安保理改革を含む国連改革に関する提言書が出されたがほとんど生かされていない。その提言でも打ち出された「保護する責任」論も議論が十分に煮詰められているとは到底言えない。もう一度きちんとした議論をすべき時期にきていると思う。

紛争の平和的解決に向けて

平和運動に参加されている方の多くは、「軍事介入」と言うと反対され、その可能性が遠のけば、シリアのような事態の深刻さを忘れてしまい、関心が低くなることが多い。
軍事介入か、不介入か、という二者択一には世界の大きな焦点が集まるが、人道的危機、人権侵害をどう解決するかには注意が向けられない。しかし、人々の無関心と国連・国際社会の地道な問題解決への努力の欠如が、新たな人道危機を生み、多大な人命の犠牲を生み、新たな紛争・テロの火種を用意することになる。
是非紛争予防、紛争解決にも多くの方に関心を引き続き持ってほしい。
日本は、シリア難民への人道支援には、かなり力を入れているが、紛争の解決のための外交努力の面での発信は極めて弱い。中東情勢に比較的ニュートラルという利点はまだかろうじて残っている。
それを生かして紛争の平和的解決のために、独自の取り組みを是非模索すべきだと思う。

2013年9月29日 (日)

私もお話しします♪10月1日開催 ヒューマンライツ・ナウ「ミャンマー(ビルマ)視察報告会」のご案内

今年もあっという間にもうすぐ10月!!! すっかり秋ですね。さて、8月の盛夏の時期に訪問したミャンマー視察の報告会、10月1日に開催します。
是非予約してお誘いあわせのうえ、ご参加くださいませ。
私もお話しします。

10月1日開催 ヒューマンライツ・ナウ「ミャンマー(ビルマ)視察報告会」

今年8月初旬,ヒューマンライツ・ナウのビルマチームでは,ビルマを訪れ、ヤンゴン・マンダレーを中心に現状を調査してきました。訪問先は,アウンサンスーチーさん率いるNLD(国民民主連盟),The Irrawaddy Magazineを発行する出版社ほかメディア,ミャンマー国内の弁護士会,国家人権委員会,UNDPやUNHCRなどの国連機関等盛りだくさんでした。その他,ビルマ国内で人権活動を行っている方々ともお会いし,様々な立場の方と,民主化された後のミャンマーの変化や現状,人権に対する意識,教育等について話し合いを行いました。また,PLA(Peace Law Academy)の卒業生たちとも再会し,卒業生の今後の活動について話し合ってきました。さらに,8888民主化運動25周年を記念する集会にも参加するなど,とても充実した視察調査となりました。

今回の報告会では,視察調査の内容をご紹介し,まだあまり知られていないビルマの現状をお伝えします。8888民主化運動25周年という貴重な集会の状況も映像で上映いたします。さらに,今後のPLAの運営,PLA卒業生たちの活動についても,皆さまと情報を共有してまいります。
視察前までは様々な不安がありましたが、ビルマの人々はとても優しく親切で,また,その笑顔には未来への希望が感じられました。今回の報告会では,そんな人々の魅力も一緒にお伝えしたいと考えています。皆さまのご参加を心よりお待ちしております。
◆日 時:2013年10月1日(火)午後6時半から9時
◆場 所:青山学院大学(青山キャンパス) 総研ビル(正門の右となり)11階 第19会議室
◆資料代:1000円
◆参加申込:予約は不要ですが、人数把握のため、事前にご連絡いただけますと幸いです。
 ヒューマンライツ・ナウ事務局まで、10/1ビルマ報告会参加希望、氏名、連絡先を明記の上、
 メール(info@hrn.or.jp) または、ファックス(03-3834-1025)にて、お申込みください。

2013年9月21日 (土)

子ども被災者支援法の「基本方針案」はあまりに不十分。23日までパブコメをやっています。

政府がサボタージュを続けていたことで批判を浴びていた、「原発事故子ども被災者支援法」。この法律は、原発事故の被害に会った周辺の住民の方々について、居住、避難、帰還などその選択の如何を問わず、支援をし、子ども・妊婦等に特に配慮する、とした基本法で、2012年6月に成立した。
全文はこちらです。http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H24/H24HO048.html
ところが、政府はこの法律を実行しないまま1年以上も放置し、法に義務付けられている「基本方針」も策定しなかった。
水野参事官のツイッター問題で話題になったりしたが、その後もたな晒しが続いていた。
ところが、政府は今年8月30日になって唐突に「基本方針案」を公表。正確にいうと、原発事故子ども被災者支援法第5条に基づく「被災者生活支援等施策の推進に関する基本的な方針(案)」というもの。実はいま、人知れず、パブリックコメントをやっている。
● 意見聴取の機会が圧倒的に少ない。
パブリック・コメントの意見受付締切りは当初、わずか二週間後の9月13日と設定され、これでは短すぎる、と延長を求める声があがり、9月23日まで延長された。それにしても短い。「説明会」みたいなものは開催されているが、被災者・原発事故被害者、避難者への意見聴取のための公聴会等は予定されていない。被災者が求めているのに開催しない意向のようだ。
福島第一原発事故を受けて、政府が昨年実施した、エネルギー政策に関する、2030年の原発依存率を問う意見聴取は、約2カ月のパブリック・コメント募集期間を設け、公聴会も全国で開催された。これと比較しても、今回の対応は、被災者・国民からの意見聴取を著しく軽視していると言わざるを得ない。
法5条3項は「政府は、基本方針を策定しようとするときは、あらかじめ、その内容に東京電力原子力事故の影響を受けた地域の住民、当該地域から避難している者等の意見を反映させるために必要な措置を講ずるものとする。」とするが、このような短い周知期間ではとても法5条3項の要請を満たしているとは言えない。
それに、今回の基本方針案およびパブリック・コメント募集が全国各地に生活する避難者、原発事故の影響を受けた広範な地域に住む住民に広く周知されたともいえない。
長い間、法律をたな晒しにしたうえでこのようなやり方、被災者置き去り、原発事故被災者軽視との強い批判を免れないと思う。
●「基本計画案」の中身もあまりに不十分
公表された「基本方針案」の内容をみると、極めて不十分で、被災者・避難者の方々は失望・落胆している。
「基本方針案」に書かれていることの多くがこれまでの施策を何らの課題検証・反省もないまま踏襲するものにとどまり、原発事故被災者の切実な要望、ニーズに全然答えていないのだ。今年5月に国連「健康に対する特別報告者」グローバー氏が、年間1mSvを基準として住民の健康の権利を守るために政策の転換を求める具体的な勧告を出したが、そこからも著しくかけ離れ、国策が引き起こした人災である原発事故の救済としてあまりにひどいものである。
(グローバー勧告 http://hrn.or.jp/activity/area/cat32/post-211/) 

ここでおおまかなポイントをみていきたい。
第1 に、「支援対象地域」は、「福島県中通り」「浜通り」地域が指定されているが、指定の根拠となる客観的・合理的基準は何ら示されていない。福島原発事故後に放出された放射性物質の影響は、県境で遮断されるものではなく、福島県外の地域にも多大な影響を及ぼしているのだから、福島県内の地域のみを指定する理由は見出しがたい。国は放射線量に基づいて、公平性、客観性のある合理的な基準を定立し、同等の被害を受けた地域住民には平等に支援を行うべきだ。
公衆の被ばく限度に関する日本の従前からの基準は年間1ミリシーベルト。今年5 月、国連「健康に対する権利」特別報告者アナンド・グローバー氏は、低線量被ばくでも健康に悪影響を及ぼす危険性があることから、国はもっとも影響を受けやすい子ども等の保護を考慮し、公衆の被ばく限度を1 ミリシーベルト以下に低減すること、子ども被災者支援法の支援対象地域は1 ミリシーベルト以上の地域を含むことを勧告した(http://hrn.or.jp/activity/A%20HRC%2023%2041%20Add%203_UAV.pdf)。
支援法2条にも基本理念として、「被災者生活支援等施策を講ずるに当たっては、子ども(胎児を含む。)が放射線による健康への影響を受けやすいことを踏まえ、その健康被害を未然に防止する観点から放射線量の低減及び健康管理に万全を期することを含め、子ども及び妊婦に対して特別の配慮がなされなければならない。」と書いてあるのだ。
支援対象地域は少なくとも追加線量1 ミリシーベルトの地域を含む全自治体とすべきである。
第2 に、基本方針案の「被災者の支援」の項目には、支援対象地域に居住する者、避難している者、帰還する者についてそれぞれ支援内容が記載されているが、支援対象地域に居住しながら今後避難を希望・選択する者に対する支援策が全く記載されていない。
各種世論調査からも、福島県内の住民の中には、今も避難を希望・検討している方々がたくさんいることが明らかとなっている。基本方針が、将来的に避難をする住民に対する支援策を何ら示さないとすれば、被災者一人ひとりの居住、避難、帰還についていずれを選択した場合も適切に支援するとした同法の基本理念(2 条2 項)に反する事態となる。
政府は、まだ避難をしていないけれど、将来的に避難する住民に対しても、住居の確保、移動の支援、就業・学習の支援を行うことを基本方針に明記し、そうした避難に関わる支援についての情報をきめ細かく、支援対象地域に居住するすべての住民に提供する手段を講じるべきである。特に、新規避難者のための、民間借り上げ仮設住宅の提供による居住地支援は急務だと思う。
第3 に、基本方針は避難者のために、借り上げ仮設住宅を引き続き提供する、とするが、平成27 年3 月末まで、1年半の延長しか言明していない。子どもの成長発達、進学を考えるに当たり、1 年半より先の支援が見えないという状況では、子どもが安心して最善の進路を選ぶことはとても難しい。大人にとっても子どもにとっても、長期的な将来の見通しが立たなければ、先が見えず、生活再建も就職や進学の計画をきちんとたてることも難しい。
こういうやり方は、放射線影響が長期にわたることを前提に、必要な支援を確実に実施すべきとする基本理念(法2 条5 項)と相いれない。
いま、線量が20ミリシーベルト以下になると、避難指定が解除され、東京電力の賠償も打ち切られるので、避難生活が続かずに、心配しながら帰還を余儀なくされる人が相次いでいる。ひどい事態だと思う。これからもっとそういう地域は増えていくだろう。
帰りたい人が帰るのはよいけれど、帰りたくない人を兵糧攻めにしたり、住むところも支援を受けず、帰るしかない、ということでよいのだろうか。
政府は、避難指示の有無を問わず、避難者に対し、従前の住居の追加線量が年間1ミリシーベルト以下に低減し、安全で自発的な帰還が可能となるまで、長期にわたる借上住宅・公営住宅の支援継続すべきである。
公営住宅も無料とすべきだ。
第4 に、子どもの健康を守り心身共に健全な育成をするための措置は、極めて貧弱である。基本方針案は、「移動教室」について福島県内に留めるとしており、県外を含むリフレッシュ・キャンプを主に週末に実施するに過ぎないとしている。チェルノブイリ事故後には、当事国の政府が全ての子どもに対し、国費により1カ月以上の非汚染地への長期の保養を実現している。
これと同様に、国費による長期の保養・移動教室の措置を基本方針案でも明記すべきである。
第5に、医療・健康診断に関する基本方針も、多くの批判があるのに、ほとんどこれまでと変わっていない。
まず、健康管理調査は福島県任せ、つまり、現在の県民健康管理調査任せである。
しかし、この調査は福島県民に限定されていて対象者の範囲が狭すぎるし、検査項目も不十分である。
被爆者援護法やJCO事故後には、年間1ミリシーベルト以上の被ばくを前提として、医療支援の措置が講じられているのに、なぜ原発事故だけ狭い範囲の人しか検査しないのだろうか。
政府は、追加線量年間1ミリシーベルト以上の地域に居住するすべての住民とすべての原発労働者に対し、放射線起因で発生する可能性のあるすべての傷病に関する包括的な検査を年に1度行い、国が実施の責任を負うべきである。
基本方針案には「有識者会議」を開いて今後のことについて検討するというが、これは、従来の原子力村関係の人々だけで構成されてはならない。
低線量被ばくの影響を慎重に考慮する専門家・住民の代表を中心に検討機関を構成し、その公開性・透明性を徹底すべきだ。
● 住民との協議機関の設置が必要
さらに、基本方針案には、支援策の策定・実施・見直しに関し、住民・避難者の意見を反映させる仕組みに関する言及が全く存在しない。法5条3項の趣旨に照らし、基本計画策定・実施・見直し等を進めるに当たり、住民との協議機関を常設で設ける必要がある。
協議機関には、避難中の住民、帰還した住民、支援対象地域で居住を続ける住民の代表、現在または元原発作業員を含むものとし、女性、青年、子ども、高齢者、障がい者が参加する機会を十分に保障すべきだ。
● 抜本的な見直しが必要
さらに、基本方針案は、除染、線量測定、リスクコミュニケーション等いずれの項目についても、大きな批判があるのに耳を貸さず、これまでのやり方を無批判に踏襲するだけのようだ。そして、ここに書ききれないが、住民のニーズにきめ細かく対応するものになっていない。
特に、これから帰還する人、今居住している人には、割合様々な施策が用意されているのだが、避難をしている人、これから避難を希望する人に対する支援が、あまりにも少ない。帰還に誘導する政策意図が見えるけれど、これは避難する人も帰還する人も居住する人も等しく救済しようという法の趣旨に反している。
低線量被ばくの影響はまだまだわからないところがたくさんある。そんななか、国として帰還を奨励し、インセンティブを与える一方避難している人を兵糧攻めにするような政策でよいのか、はなはだ問題である。
低線量被ばくの健康影響については知られていないことも多いが、最新の広島・長崎の研究でも低線量被ばくが健康に悪影響を及ぼす、との結論が出ている。特に影響を受けやすい子どもや妊婦を基準に、国は健康被害が絶対出ないような対策を取るべきである。
安倍首相はIOC総会で、健康被害は現在も過去も将来もないと大見得を切った。全然事実と違うが、そこまで言うなら、万全の対策を打つべきだ。
そうした観点に全く欠ける、基本方針案は、住民の切実な要望を踏まえて全面的に見直されるべきだと考える。

● みなさんも是非パブコメを出しましょう。
このように、基本計画案の内容は極めて不十分であるが、このままの予定では23日でパブコメも終わってしまう。
政府はパブコメの期間を延長し、もっと被災者・避難者の方々の声を聴く公聴会を全国各地で設けるべきだ。
しかし、そのためにも、たくさんの意見が届けられ、たくさんの人が関心を寄せていることを示すことが大切だと思います。
9月23日の締め切りまでに、多くの人がパブコメを出してくれるとよいと思う。
パブコメはこちらから送ることが出来る。
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=295130830

パブコメの内容は短くても構いません。
こちらのウェブサイトにヒューマンライツ・ナウのパブコメと、簡単な記載例を紹介してみた。
http://hrn.or.jp/activity/topic/923/
こちらの子どもたちを守るネットワークにも、パブコメの書き方に関するわかりやすい解説があり、市町村の出したパブコメも紹介されている。
http://shiminkaigi.jimdo.com/principle/
多くの人が関心を失うと政府は被害者を見捨てる。そのことが繰り返されてきた。だからこそ是非関心をもつて小さなアクションをしてくれる人が増えるととても嬉しい。この連休中に。

2013年9月11日 (水)

9.11から12年 オバマ大統領からのシリア情勢に関するメール

オバマ大統領から(ホワイトハウスのDMリストらしく)、HRNに今日の日本時間午後2時頃に送られてきたメールをご紹介します。
このまま米国には武力行使や単独行動主義をやめ、シリア紛争の平和的解決のために多国間協調で汗をかいてもらいたいと望みます。
8月終わりには、明日にも武力行使するかもしれない、と急いでHRNで意見表明をし、全国連加盟国にステートメントを送ったことを覚えています。米英仏の大国は、まるで誰の言うことも聞く必要はない、数々の疑問にも答える必要はない、自分たちだけが正しい情報を知っているし、機密だから国民たちにも知らせない、安保理決議もいらない、そのまま世界の市民の反対もよそに、武力行使に突入するのではないか、と強い危機を感じていました。民主主義の意味はどこにあるのか、と。
ところが、イギリス議会での否決、各国での反対世論の高まり、オバマが米議会の承認を受けることを決定、G20・・・と民主主義、多くの国の声を聞かざるを得ないようになってきました。
世論が、暴走を食い止める役割をここまでは果たしています。
武力によらずに人権を守り、紛争を解決できるか、世界で今、一番難しい問に解を見つけ出そうと、私たちはしています。

私たちも各国の主権者として、地球市民として、引き続き油断なく声をあげていきましょう。

9.11から12年、単独行動主義、大国の横暴、暴力の連鎖が続いてきましたが、今日は、世界には、大国が力に物を言わせるやり方ではない、多国間協調、国連中心の平和的解決方法があることを未来に示す、一日の出発点であるように、と願わずにいられません。


Good evening --

I just addressed the nation about the use of chemical weapons in Syria.

Over the past two years, what began as a series of peaceful protests against the repressive regime of Bashar al-Assad has turned into a brutal civil war in Syria. Over 100,000 people have been killed.

In that time, we have worked with friends and allies to provide humanitarian support for the Syrian people, to help the moderate opposition within Syria, and to shape a political settlement. But we have resisted calls for military action because we cannot resolve someone else's civil war through force.

The situation profoundly changed in the early hours of August 21, when more than 1,000 Syrians -- including hundreds of children -- were killed by chemical weapons launched by the Assad government.

What happened to those people -- to those children -- is not only a violation of international law -- it's also a danger to our security. Here's why:

If we fail to act, the Assad regime will see no reason to stop using chemical weapons. As the ban against these deadly weapons erodes, other tyrants and authoritarian regimes will have no reason to think twice about acquiring poison gases and using them. Over time, our troops could face the prospect of chemical warfare on the battlefield. It could be easier for terrorist organizations to obtain these weapons and use them to attack civilians. If fighting spills beyond Syria's borders, these weapons could threaten our allies in the region.

So after careful deliberation, I determined that it is in the national security interests of the United States to respond to the Assad regime's use of chemical weapons through a targeted military strike. The purpose of this strike would be to deter Assad from using chemical weapons, to degrade his regime's ability to use them, and make clear to the world that we will not tolerate their use.

Though I possess the authority to order these strikes, in the absence of a direct threat to our security I believe that Congress should consider my decision to act. Our democracy is stronger when the President acts with the support of Congress -- and when Americans stand together as one people.

Over the last few days, as this debate unfolds, we've already begun to see signs that the credible threat of U.S. military action may produce a diplomatic breakthrough. The Russian government has indicated a willingness to join with the international community in pushing Assad to give up his chemical weapons and the Assad regime has now admitted that it has these weapons, and even said they'd join the Chemical Weapons Convention, which prohibits their use.

It's too early to tell whether this offer will succeed, and any agreement must verify that the Assad regime keeps its commitments. But this initiative has the potential to remove the threat of chemical weapons without the use of force.

That's why I've asked the leaders of Congress to postpone a vote to authorize the use of force while we pursue this diplomatic path. I'm sending Secretary of State John Kerry to meet his Russian counterpart on Thursday, and I will continue my own discussions with President Putin. At the same time, we'll work with two of our closest allies -- France and the United Kingdom -- to put forward a resolution at the U.N. Security Council requiring Assad to give up his chemical weapons, and to ultimately destroy them under international control.

Meanwhile, I've ordered our military to maintain their current posture to keep the pressure on Assad, and to be in a position to respond if diplomacy fails. And tonight, I give thanks again to our military and their families for their incredible strength and sacrifices.

As we continue this debate -- in Washington, and across the country -- I need your help to make sure that everyone understands the factors at play.

Please share this message with others to make sure they know where I stand, and how they can stay up to date on this situation. Anyone can find the latest information about the situation in Syria, including video of tonight's address, here:

http://www.whitehouse.gov/issues/foreign-policy/syria

Thank you,

President Barack Obama

2013年9月 8日 (日)

樹木希林さんとお会いして

昨日開催した、名張事件イベントは、樹木希林さんをお迎えして、クレオ(日弁連会館)史上空前の盛況ぶりでした。参加いただいたみなさま、ありがとうございました。

で、私にとってとても嬉しかったことは、打ち上げで、樹木希林さんとお話しできたことでした♪
とっても緊張していたので、いつになく、あまりうまくお話しできなかったのですが、それでも感激。
希林さんと写真も撮影させていただきました。
希林さん、オーラ満載、ユーモアいっぱいの素晴らしい方でした。
長年希林さんの演技を拝見して、尊敬してきたことをお伝えしました。


Ms_kiki_kirin_2

希林さんには、美形女優ということでなく(失礼にあたらなかったらよかったのですが)、実力を磨かれてきたからこそ、希林さんが第一線の女優としてずば抜けたいいお仕事をされてきたこと、いい生き方をされ、今も輝かれていることに対して、とても尊敬をしていて、僭越ながら、自分のお手本のように長年感じてきた、という趣旨のことを話したところ、
希林さんも呼応してくださったのですが、

なぜか希林さんは「アウンサンスーチーさんは、あれほど美人でなければもっと先まで行けたかもしれない」と誰かに言われた、という話をおっしゃっていて、含蓄がありました。

Photo


そこで緊張してうまい合いの手を入れられなかったのが残念でしたが、大変嬉しいひとときでした。
私も、分野は違えど、これからも研鑽を積んで、良い仕事をしていきたいと励まされました。

2013年9月 7日 (土)

シリア・武力によらない解決を求める国連人権高等弁務官

..
来週月曜日の国連人権理事会のオープニングに国連人権高等弁務官が報告するステートメントが公表されました。シリアについて、国際社会が紛争の平和的解決に対し、2年間も努力を怠ってきたことを指摘し、軍事行動による事態の解決に反対しています。
いつも地域紛争に関心がなく、安保理は機能不全のまま、担当者任せで、まともな外交努力をしてこなかった各国首脳。紛争が手のつけようがないほどにこじれると軍事行動。世界はその繰り返しです。
本当に武力によらないで人々の人権を守ることを真剣に考えているのか、今回のことを教訓に、世界が紛争との向き合い方について考えてほしい、賢明な判断をしてほしい、と切に求めます。


Opening Statement by Ms. Navi Pillay

United Nations High Commissioner for Human Rights
Geneva, 9 September 2013

"In September two years ago, when I addressed the situation in Syria at this Council, I pointed out that some 2,600 Syrians had already died in the conflict.
Today the number of dead stands at over 100,000. Last week the number of refugees reached two million, and an additional 4 million people are displaced inside Syria.
Camps in neighbouring lands are struggling to cope and we are just a few months away from winter. The suffering ofSyria's civilian population has reached unimaginable levels.

The use of chemical weapons has long been identified as one of the gravest crimes that can be committed, yet their use in Syria seems now to be in little doubt, even if all the circumstances and responsibilities remain to be clarified.

Mr. President, Excellencies,

The International Community is late, very late, to take serious joint action to halt the downward spiral that has gripped Syria, slaughtering its people and destroying its cities. This is no time for powerful States to continue to disagree on the way forward, or for geopolitical interests to override the legal and moral obligation to save lives by bringing this conflict to an end.

This appalling situation cries out for international action, yet a military response or the continued supply of arms risk igniting a regional conflagration, possibly resulting in many more deaths and even more widespread misery. There are no easy exits, no obvious pathway out of this nightmare, except the immediate negotiation of concrete steps to end the conflict. States, together with the United Nations, must find a way to bring the warring parties to the negotiating table and halt the bloodshed."

2013年9月 5日 (木)

樹木希林さんも出演! 今週土曜・名張事件市民集会にご参加ください。

夏が終わり、、、過ぎ去る夏を惜しむ、センチメンタルになりがちな時期ですよね。
今週末はいかがお過ごしでしょう?
さて、土曜日、私も取り組んでおります、名張毒ぶどう酒事件について、市民集会を開催します。
なんと、あの素敵な樹木希林さん(映画「約束」で奥西氏のお母さん役をしていただきました)が参加してくださるのです。
ナマ希林さんが見られるということで、また、希林さんがどんな発言をしていただけるのか、と、
私もとても楽しみにしています。
コーディネーターは、江川紹子さんです。
是非、お時間あれば、ご参加いただき、名張事件について知っていただく機会にしていただけると嬉しいです。

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名張毒ぶどう酒事件 映画「約束」の上映とパネルディスカッション
-奥西勝、半世紀の叫び

名張毒ぶどう酒事件は、事件発生から52年が経ち、再審請求人の奥西勝氏は、現在87歳になりました。
奥西氏は、昨年6月に肺炎に罹り、名古屋拘置所から八王子医療刑務所に移送され、本年5月2日及び6月19日の2度にわたり危篤状態に陥り、予断を許さない状況が続いています。
第一審無罪判決、逆転死刑判決、再審開始決定、再審開始取消決定と、事件発生から半世紀余に及び、奥西氏は司法に翻弄され続けてきました。
足利事件、布川事件、東京電力女性社員殺害事件等、再審無罪判決が相次ぐ中で、司法のあり方が問われています。
本集会は、これらの問題を、奥西勝氏を描いた東海テレビ制作の映画「約束-名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯」の上映及びパネルディスカッションを通して、多角的に、かつ深く市民の皆様にお伝えしようとするものです。
多くの皆様の御参加をお待ちしています。
日時 2013年9月7日(土) 12時50分~16時30分
場所 弁護士会館2階講堂「クレオ」
(千代田区霞が関1-1-3 地下鉄丸ノ内線・日比谷線・千代田線 「霞ヶ関駅」B1-b出口直結)
参加対象 会員・研究者・マスコミ・一般
参加費等 参加無料、事前申込み不要

内容 13時~ 映画「約束-名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯」上映
 監督:齊藤潤一
 出演:仲代達矢、樹木希林 ほか
 上映時間:120分
 (→映画公式サイト)


15時15分~ パネルディスカッション
 樹木希林氏(女優、映画「約束」母タツノ役)
 齊籐潤一氏(映画「約束」監督)
 鈴木 泉氏(名張事件弁護団長)
 コーディネーター:江川紹子氏(ジャーナリスト)
主催 日本弁護士連合会

出産したらお辞めなさい」労基法違反推奨の曽野綾子論文を週刊現代が掲載した件はなぜ問題にならない?


週刊現代は、8月31日号に「甘ったれた女性社員たちへ~私の違和感」とする曽野綾子氏の特別寄稿を掲載した。

そのなかで、曽野氏は、驚くべき発言をしている。

見出しは「出産したらお辞めなさい」


「最近、マタニティ・ハラスメントという言葉をよく耳にするようになりました。マタハラとかセクハラとか、汚い表現ですね。妊娠・出産した女性社員に対する嫌がらせやいじめを指す言葉ですが、この問題に対し、企業側は、反対意見を言えないよう言論を封じ込められているようです。」「そもそも実際的に考えて、女性は赤ちゃんが生まれたら、それまでと同じように仕事を続けるのは無理なんです。」「ですから、女性は赤ちゃんが生まれたら、いったん退職してもらう。そして、何年か子育てをし、子どもが大きくなったら、また再就職できる道を確保すればいいんです。」「彼女たちは会社に産休制度を要求なさる。しかし、あれは会社にしてみれば、本当に迷惑千万な制度だと思いますよ。」
出典:週刊現代8月31日号
OH! これには本当に驚きました、私。

改めて説明するまでもないこと(のはず)であるが、産休制度は労働基準法65条に明記された労働者保護の根幹。労働者保護のイロハのイにあたる最低基準であり、違反した場合、労働基準法違反として、懲役・罰金刑が科される。

企業の法令順守・コンプライアンス上もイロハのイ。

そして、人間らしい生活と女性の働く権利確立のために、先達たちが勝ち取ってこられて、国際的にも当然のこととして疑問の余地なく認知されている。このような基本的人権・最低限の労働者の権利を攻撃する人がいるとは思ってもいなかった。

セクハラ、マタハラについても、セクハラは均等法で明確に禁止され、マタハラについても多くの類型が均等法違反であるというのに、「汚い表現ですね」とは何事であろう。こういう風潮が蔓延すれば、被害に会った女性の権利行使を躊躇わせることになり、職場で女性の権利侵害が横行することになりかねない。

このような発言をする曽野氏も曽野氏だし、掲載・依頼する週刊現代も大問題である。

曽野氏は私の知る限り、政府の審議会の委員などによく名前を連ねており、安倍政権の教育再生実行会議の委員などもしている。

私は曽野氏のことはよく知らないので、どんなに偉い方か、いかなる魅力・実力のある方かよくわからない。

しかしながら、労基法違反の主張を堂々と展開し、もし雇用主だったら刑事罰の対象となりかねない言動、均等法違反を問われる言動を公然とされている方が、政府の審議会等の委員、とくに教育再生実行会議の委員をそのまま継続していいのだろうか。

審議会委員の間で、いろんな意見の食い違い・対立があるのは当たり前だが、女性の権利の根幹を否定するような人、社会のコンセンサスたる法律への違反を公言してはばからない人を委員にして平然とし、その意見を取り入れて政府の政策が決められるというのはおかしい。

「出産したらお辞めなさい」と子どもたちを教育していくつもりだろうか??

政府内部における、男女共同参画推進の流れとも全く整合性がない。

何が教育再生だ、私としてはすぐにやめてほしいと思う。

週刊現代は、このところ、「コンプライアンス・タブー」職場では本当のことは言えないから」として、働く女性が産休・育休を取得することや、出産を経験した女性に対する批判・非難めいたキャンペーンを三回シリーズで展開したがその極め付けが曽野氏の寄稿だ。

社内では法令違反で決して言えないことを保守系女性文化人に言わせて、誰も責任を取らないというずるいやり方だ。

もちろん、最近では、仕事を持ちながら子育てをできる女性は少数派になってしまい、ますます厳しくなる労働環境のなかで様々な軋轢も生まれているのは確かだという。しかしその解決は、労働者の権利を否定するところから始まるべきでは決してなく、権利を前提としたうえでの対策を建設的に議論するほかにない。

おじさんたちが「そうだそうだ」と心の中で喝采を送るガス抜きくらいの軽いノリで取り上げたのかもしれないが、労基法違反を公然と推奨するような記事を垂れ流すような言論は果たしてそのまま野放しにされてよいのか、メディア・企業としての資質・コンプライアンスのあり方が問われるのではないか。

しかし、あまりメディアで問題にされている気配はない。

唯一アエラが異を唱えただけのようだhttp://dot.asahi.com/aera/2013082800030.html

このような人権侵害的言論が公然とまかり通って、あまり問題になっていないこと自体が問題である。

ちょっと話が横にそれるようだが、昨年、週刊朝日が橋下氏に関連して、部落差別を助長するような記事を掲載し、社会的に問題となった際、私も

「週刊朝日の人権感覚は論外」

http://bylines.news.yahoo.co.jp/itokazuko/20121020-00022138/

として、差別を助長する言論はどんな場合でも許されない、と書いたけれど、今回のこと、性質としては、その時と同じくらいジャーナリズムとしての姿勢が問われるべきであるが、大きな声で騒ぐ人がいないから、社会問題にならないのだろうか。

子育て真っ最中で忙しく、肩身の狭い思いもしながら、仕事と家庭を両立してる若い女性達は大きな声をあげにくい立場にある。

となると、大声を叫ぶ権力者の人権に関わるメディアの言論は叩かれて反省を余儀なくされ、弱くて声をあげられない人の人権を傷つけるようなメディアの言論は、大手を振って何ら反省もしなくていいことになる。

そんなこの国のあり方、メディアをめぐるあり方がよいとはとても思えない。

それは私の場合、「違和感」以上の「嫌悪」だ。皆さんはどうだろうか。

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