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2013年8月30日 (金)

シリア軍事介入への重大な疑問


1 シリアにおける化学兵器使用

内戦で残虐行為が果てしなく広がり、罪もない民間人が日々殺害されていくシリア。ここにきて情勢がいっそう緊迫してきた。

今月21日、ダマスカス郊外で、化学兵器が使われて子どもを含む数百人が犠牲となった。

国際NGO国境なき医師団は24日、同団体が支援しているシリアのダマスカスにある3つの病院で合計約3600人の患者が神経ガスによる症状を示していると公表、このうち355人は死亡したとしている。患者らは現地時間で21日未明、けいれんや瞳孔の縮小、呼吸困難などの症状が一斉に確認され、神経毒性症状に用いる薬アトロピンで治療された。同団体のランセン医師は、原因については不明としながらも「3時間以内に神経毒性のある物質にさらされた可能性がある」と指摘した。この化学兵器使用については、反政府勢力と政府側の双方が相手による攻撃だと主張している。

2 混とんとするシリア情勢

化学兵器使用はいうまでもなく、残虐で非人道的な人権侵害であり、その使用は重大な国際人道法違反に該当し、到底容認することはできない。これほどの残虐行為をアサド政権が自国民に対して行っているとすれば、言語道断である。

化学兵器の使用をしていないとしても、アサド政権の住民虐殺、民間人攻撃はこれまでもすさまじいものがあり、戦争犯罪に該当する到底許されない行為が数々行われてきた。他方、反政府軍も、処刑、拷問や略奪といった重大な国際人権法・人道法違反行為を行ってきた。国連の調査報告書等からもそのことは明らかにされている。反政府軍のなかには、アル・カイーダ系とうわさされる「ヌスラ戦線」がおり、次第に存在感を増している。シリアでは、政府=悪、反政府勢力=解放軍という単純な図式が成り立たず、極めて複雑な様相を呈している。

3. 予想される軍事介入

8月21日の事態を受けて、米国、英国、フランスは、シリア現政権が化学兵器を使用したと断定し、軍事行動を行う方向性で最終調整に入っているとされる。圧倒的に事態は進んでいるが、それでも疑問を呈しておきたい。

まず、国連安全保障理事会を完全に無視し、その承認を得ることなく独断で軍事行動に出るということでよいのか、という問題がある。

国連憲章は、安保理決議の承認を得ない武力行使を原則として違法としている。国連安保理の決議のないまま武力行使をすることは明らかな国際法違反である。フランスなどは、「化学兵器を使用した者は絶対許さない。我々が処罰する」と言っているが、なぜ米英仏三カ国に処罰権限があるのだろうか。世界最強国が独自の判断で、国連憲章のルールを全く無視して、武力行使に踏み切ることがやすやすと容認されてしまえば、今後も独自の判断で「我々が処罰する」という武力行使が横行することになりかねない。深刻な問題である。

国連事務総長も、安保理での議論を求めている。事態の深刻さを考慮しても、国際社会のコンセンサスを得ることなく、このようなことがまかりとおることには賛成できない。

4. 国連調査を待たない「断定」

次に、米国、英国、フランスは、アサド政権が化学兵器を使用したと断定しており、アラブ連盟もそのような主張をしているが、これらの国が断定すれば、武力行使は容認されるのか、という問題がある。この点でも国連無視が顕著である。

アサド政権は化学兵器使用を否定し、ロシアは従前から反政府側が使用したのではないか、という主張をしている。

オーケ・セルストロム氏を団長とし、20人の化学兵器などの専門家で構成される、国連のシリアでの化学兵器使用疑惑に関する調査団(国連調査団)が、政権側と反政府側の同意を得て、8月19日から「誰が化学兵器を使用したのか」について現地調査を開始しているのだ。確かに、調査開始後に国連車列が何者かによって銃撃を受ける事態が起きて、調査日程の延期があったが、いままさに調査をしようとしているのだ。なぜその結果を待たずに拙速に決めてしまうのか。

米国、英国、フランスは、現政権が化学兵器を使用したとの証拠を国際社会に開かれた形で示しておらず、これでは、国際社会としての透明性の確保された検証がなしえない。

英国、フランスは、従前から「アサド政権が化学兵器を使用」と主張してきたが、米国オバマ大統領は慎重に事態を見極める姿勢を示して、すぐには同調しなかった。今回、判断を変えた根拠は何なのか、直接的な証拠を入手したのか、詳細は不明である。

オバマ政権は、攻撃にあたって調査報告書を世界に公表する、としているが、攻撃ありきで話は進んでおり、仮に攻撃のタイミングで調査報告書が公表されたとしても、国際社会や当事者には検証・反論の機会すら与えられない、アリバイ的なものというほかないだろう。

2003年のイラク戦争の際は、米国もまがりなりにも国連安保理の承認を得ようと一度は試み、「イラクに大量破壊兵器がある」とする米国のプレゼンが、公開の場でなされた。それがのちに誤りとわかり、パウエル国務長官(当時)がのちのちも非難される結果となったが、そうした公開の場での説明すら行わないまま、ということはあり得ない。

私はアサド政権を弁護しているわけではない。しかし、私たち弁護士からみて大きな違和感があるのは、人ひとりを有罪とするか、無罪とするか、という一国の刑事裁判制度においては、公開法廷で証拠が提示され、その証拠について弁護側が防御、論駁、反対尋問権を行使し、信用性を吟味する機会を与えられたうえで、「無罪推定」原則に基づいて裁判官が判断をする、という手続が踏まれるのに、一国に軍事介入し、多数の無実の人々の人命が奪われるかもしれない、というのに、その事実認定が密室で、ある国の独断で行われ、証拠は「インテリジェンス」「国家機密」などの口実から闇のなかに置かれ、不透明なまま「断定」される、という今の国際社会のあり方である。

こうした場合の事実認定が「無罪推定」であるべきか、は議論のあるところである。しかし、かくも乱暴な断定でよいのだろうか。

万一にでも誤りがあった場合、当事者としては取り返しのつかないことになるだろう。

国連調査団の結果を待つことなく、武力行使に踏み切ることには、到底賛成できない。

5 紛争拡大の心配

最後に、武力行使が、際限のない暴力の連鎖を生む危険がある、ということである。武力行使は限定的という話もあるが、政府の反撃次第では全面戦争に突入する可能性が否定できない。現在不安定な中東のさまざまな武装勢力、利害関係者の対立に火を注ぐことになり、紛争は中東・北アフリカ全体に拡大する危険性もある。反政府勢力のなかには、アル・カイーダの流れをくむ勢力もおり、力を増している。反政府側への軍事援助で、テロリストに武器と資金を大量に供給し、結果的にテロが拡大することも懸念される。

6 この20年~ 大国が独自判断で武力行使する事態が横行

2003年イラク戦争の際、何が起きただろうか。米国がイラクには大量破壊兵器があると主張、国連安保理に軍事行動の承認を求めたが、安保理はこれを承認しなかった。IAEAの査察が入ったりしたが、その結論もろくに尊重しないまま、安保理の承認のない軍事行動の結果、この10年間でどれだけの人命が奪われたであろうか。その結果大量破壊兵器が存在しなかったことは明らかとなっている。

確かに今回、アサド政権が化学兵器を使用したことは疑われる。しかし、イラク戦争の反省にたてば、国連調査を経ずに政権側の使用と断じて、安保理の議論すら回避して軍事行動に踏み切ることについて、突き進むということでよいはずがない。

過去の教訓から学ぶ必要がある。

1990年代の旧ユーゴ紛争に関わる「人道的介入」の際は、安保理決議を経ない介入について世界で大議論となった。今回、国連憲章無視が公然と、堂々と、議論もほとんどなく、まかり通ろうとしていることは、大変深刻だと思う。

人道的介入に関しては、国連安保理の承認を得たリビアの例でも、軍事行動に関わった欧米諸国や反政府勢力による深刻な国際人道法違反が報告され、カダフィー氏は超法規的に殺害される、という、紛争の公正な解決とは到底いえない結末を迎えた(この件で、私たちは国連の武力行使容認のあり方についても疑問を呈してきたhttp://hrn.or.jp/activity/topic/post-94/)。リビアでも、国際社会の世論が軍事行動に傾いたきっかけとなる事件は後で誤報と判明した。

シリアの件で安保理でコンセンサスが得られない背景にはロシアの思惑・利害が大きいものの、リビア介入に関する検証・反省がきちんとなされず、結局無責任な軍事介入となってその責任の所在もあいまいだ、ということが影を落としていると思う。武力行使を承認しながら、深刻な事態を防ぐこともなく、検証も十分行わない、国連の責任も大きい。

「保護する責任」という議論が国際的には盛んであるが、このような場当たり的な、大国主導の乱暴な軍事介入をみんなが望んでいるのであろうか。今一度、過去の人道的介入というものについて、真摯に国際社会が検証・反省する必要があるように思う。

国連憲章のルールや理念から乖離した軍事行動がそのまま当たり前のように容認される現在の空気はとても深刻である。

紛争の拡大によって、犠牲になるのは、いつも罪のない市民である。

7 打開への模索を

シリアで長期化する紛争の結果、今までに多大な人命の犠牲があった。アサド政権については弁護の余地はなく、国際人道法違反の戦争犯罪をしてきたことは明らかである。反政府勢力のなかにも深刻な人権侵害に加担してきた勢力がある。

事態は国際刑事裁判所に付託され、訴追・調査がもっと早期に行われるべきだったが(http://hrn.or.jp/activity/topic/-80/)、国際社会のコンセンサスは得られなかった。

和平に向けた動きもあったが、政権側にロシアやヒズボラが援助、反政府側に米国、イギリス、フランスが援助、というかたちで国際社会も内戦の継続に責任を負ってきた。今日まで、国際社会が国際的なルールに基づく事実の解明、紛争の解決についてコンセンサスを得られなかったことは本当に残念だ。

どちらかにこれ以上加担するのでなく、双方への武器・軍事援助を止めて、和平への道を探るべきではないのか。

国連安保理には、緊急会合を早急に開催し、事態の打開について国連加盟国の真摯な議論を促すことを求めたい。

8 日本のポジション

ところで、日本は、この議論において、まったく蚊帳の外に置かれているようである。安倍首相は昨日、アサド大統領の退陣を要求しており、その限度では穏当な対応であるが、米国等が軍事行動に踏み切れば、支持を表明するだろう、という見方もある。

しかし、日本政府とて、何の証拠も見せられることなく、無責任に賛成することは、一国の判断として到底許されないだろう。

イラク戦争に関する甚だ不十分な検証が昨年12月に公表されたが、大量破壊兵器疑惑について情報収集が不十分であった、とするものであった(大量破壊兵器の存在について「存在しないことを証明する情報はなかった」「大量破壊兵器が確認できなかった事実は厳粛に受け止める必要がある」など。では、「存在することを証明する」情報は日本政府として入手したのか。http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS21023_R21C12A2PP8000/)。

独自の情報と判断がない限り、いかなる無責任な態度表明もすべきではない。

■ ヒューマンライツ・ナウは、以下の声明を公表し、英語版を国連加盟各国に送付予定です。

http://hrn.or.jp/activity/topic/post-223/

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