人権・民主主義外交~モンゴル外務省からの招待状に考えこむ。
モンゴル外務省から国際会議の招待が来た。
人権・民主主義の促進のために活動する市民社会のアクターを世界から招待して国際会議を大々的に開催するそうである。
遠くはチュニジア等のアラブ諸国から、アラブの春後の民主化の動きについて話を聞き、ミャンマーの民主化を担う人々も招聘、中央アジアからも市民社会を招聘し、様々なテーマでディスカッションをするという。
かなり大がかりな国際会議になりそうであり、私も日程を調整中である。
こうした会議、国連が主催したり、市民団体が主催する、というのはよくあるが、政府が主催し、かつ市民社会・NGOを招待する、というところが注目すべきところである。
私の記憶では、現大統領が人権擁護に熱心であり、モンゴルのNGOは政府との実質的かつ定期的な人権対話を求めていたところ、実現するようになってきた、という話であり、モンゴルの国内人権課題の進展のためにも、政府とNGOが定期的に意見交換をしているようだ。そういったことをグローバルレベルでやろう、というのが、この会合の目的なのではないだろうか。
モンゴルも中国、ロシア等の挟まれて、それらの国とは違った国の歩みを進めていこうとしているのであろう。そのひとつの特色として、まだまだ発展途上のモンゴルではあるけれども、人権・民主主義、市民社会との対話、という価値観を大切にしていこう、という考えもありそうである。 私の経験では、台湾もそういう傾向があるように思う。
しかし、よく考えると(考えなくても)こういうことは、経済力にふさわしいアジアでの役割を考えるなら、日本こそが先にやっているべきなのに、すっかりモンゴルに先を越されてしまっているのはどういうことだろうか。
実は、日本も一時期人権外交やアジア地域の市民社会の支援を比較的純粋に考えていた時期があったらしく、アジア地域の市民社会・NGO・人権活動家を東京に招聘してネットワーク構築のための国際会議を開催したことがあるそうだが、今となってはにわかに信じられない話である。
しかし、思い出すまでもなく、今の安倍政権も人権・民主主義を支援する「価値の外交」を標榜しているはずだ。 そのような話、今年の1月頃に少し話題になったものの、その後安倍政権が「価値の外交」に本腰を入れて、本格的に推進している気配はほとんど感じられない。
唯一、ODAは価値観を同じくする「お友達」の国に重点的に配分する、というようなODA方針が公表されたようだが、私としては手放しに評価できない。価値観を同じくする国は例えばミャンマーだそうであるが、ミャンマーはつい最近まで軍事独裁政権だった国である。そんなにオセロゲームのように黒から白に、独裁から民主主義に移行するはずがない。
民主化とは、人権とは、そんなに単純には進まない長い道のりであり、アラブの春の後の中東も、ミャンマーも未だ五里霧中の状態なのだ。だからこそそんな不確実ななかでも、民主化や人権の担い手となって活動する市民社会を地道に支援していく必要があると私は思う。
例えば中国は日本にとってオセロゲームの黒かもしれないが、そこでも人権を守るために命がけで活動する人がいる。
そうした人を支援するこそが人権・民主主義外交のはずである。 国の支援ばかり考えないで市民社会の支援に取り組んでほしいものだ。
確かに、単に大々的に国際会議を開催するばかりがよいとは思わない。
とはいえ、価値の外交という日本政府が推進しているはずの分野でも、日本がかなり遅れをとっているのが残念である。
外務省の個々の役人の方と話すと、なかにはたいそう熱心に人権についても心を砕いている方々はいるし、その努力には多とすべきものもある。 ただ、全体として日本が人権・民主主義外交になっているのか、というと、そうした政治的意思は、掛け声にも関わらず、どうも見えない。
それに、甚だ残念なことに今日本では、レイシズムのデモが首都や大阪で盛んに行われ、現政権もこれに対してひとつのステートメントも出さずに黙認しているという人権感覚・国際感覚なのである。そもそもそんなことで、人権に関する国際会議のホストをできる状態ではない、というのが率直なところであろう。
日本が人権・民主主義外交を進めるには、克服すべき課題があまりに多いな、と考え込んでしまうが、自ら人権・民主主義と言い始めた以上、それを突き詰めて誠実に考えるのにいい機会だといえる。正面から考えてほしいものである。
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