一年中で一番濃密ともいえる時間を過ごしています。
タイ・ビルマ国境の町、メイソットに来ています。
私たちは、2007年以降、ここでビルマ人の若者たちのための未来の法律学校「ピースローアカデミー」を支援しています。
http://hrn.or.jp/activity/project/cat47/peacelaw/
アウンサンスーチー氏の釈放後、国際的に話題に上ることが多い国、ミャンマー(ビルマ)。これまで、軍事政権の元で、人権や自由を求める活動が抑圧されているどころか、 「人権」という言葉さえ使えない国でした。それでも、国内には自由を求める若者たちがいます。
HRNは、ミャンマー(ビルマ)の民主化を目指すミャンマー(ビルマ)法律家のNGO「ビルマ法律家協会」と連携して、タイ・ミャンマー(ビルマ)国境の町メイソットにて、未来のリーダーとなる若者たちのための法律学校、「ピース・ロー・アカデミー」(PLA)を運営しています。PLAは、ビルマ国内やタイの難民キャンプから選抜されてきた主に20代の若者たちが、2年間、寮生活を送りながら、ビルマの法律とともに、各国の憲法や人権、国際人権・人道法その他のリーガル・スキルを学ぶ法律学校です。
特に、人権侵害の標的になりやすい少数民族や女性を重視し、地域バランスを配慮して多数の希望者から選抜しています。HRNは資金難から閉鎖に追い込まれたこの学校を支援、2009年に再開させ、運営をするとともに、日本から法律実務家などを講師として派遣しています。
ミャンマー(ビルマ)の民主化を進め、定着させるためには、草の根からの民主主義が実現することが重要です。そのためには、一人でも多く、人権と民主主義について 理解する、若いリーダーが育っていく必要があります。
卒業生は、卒業後、祖国に戻って弁護士になったり、民族のリーダーになって平和で人権の保障させる国につくりたい、と真剣に勉強を続けています。互いが争い合っている少数民族の青年どうしが2年間一緒に学ぶなかで、信頼が醸成され、民族の和解と平和を望む気持ちも育まれています。
そんな彼らに、アジアの国である日本の法律家の知識や経験、人権活動を伝えることは大きな意義があり、日本の法律家だからこそできる貴重な成果をあげています。
「これからは、アウンサンスーチー氏一人ではなく、その代わりになるたくさんの未来のリーダーを。」そうした思いをこめて、私たちは学生たちの教育活動に取り組んでいます。
・・・・それでも、今年までは、「どんなに教えてもそんなに早く民主化は来ないかもしれない」そんな悲観的な気持ちも頭をよぎりました。そうしたことを一番感じているのは学生かもしれません。しかし、学生達は本当に献身的に勉強していて、その姿、きらきらした瞳にいつも心打たれて教えてきました。
しかし、今年は、民主化への動きが目まぐるしく、学生たちは、これから帰国して全員が弁護士か人権活動家になる事を決意しています。この学校で学ぶことが、本当に民主化、人権に即役に立つのです。
ここ、メイソットは涼しく、豊かな自然に囲まれ、時が止まったように静か。
学生達もサポートする先生たちもどこまでも純粋で謙虚な方々ばかりです。
そして国を変えようと、心を祖国の民主化・人権に捧げています。
そのような皆さんに囲まれて過ごすこと、少しでもお役にたてることは、私にとっての誇りなのです。
今回は、調査や準備、他の講師のサポート等を終えて、8月1日から本格的に講義をスタートしました。
毎日、ビルマの学生25名に国際人権法を教えています。
6日間、毎日4コマ(75分)を教え、計24コマを教えます。
通常、4コマを教えるのは大変でみんなばててしまいますので、2人で来ることが多いのですが、私はいつも一人、またはインターン・ボランティアさんと一緒に来ます。今回はリサーチ・インターンさんにあまり頼まず、一人で全部やっているので、みんな私の体力に驚いているようです(^^)
現在の学生を教えるのは、昨年の夏に引き続いて2回目ですが、国際人権法についてすべてをカバーするつもりでいます。
昨年は入門編だったけれど、今年は上級編です。
私が大学生のころは「国際人権法」というクラスは日本の法学部にはなく、私は米国留学中に、ニューヨーク大学ロースクールで国際人権法を勉強したので、そのとおりに教えていますので、かなりのハイレベルです。
アップデートも多いので、オックスフォード・プレスの人権条約コメンタールやら、条約機関の判断やらを勉強しながら準備に時間をかけています。
今回は、国連人権機関、条約制度、特別報告者制度、
NGOの役割と国連への通報方法、国連協議資格、
個人通報制度、報告制度、自由権規約の義務の性質、
人権の制約、表現の自由と日米の憲法判例、LRAテスト、
Effective Remedy, Transitional Justice,
死刑とExtradition、ベラスケス・ロドリゲス事件、
緊急事態と人権、
グアンタナモ基地を例にテロリズムと人権、
人権条約の留保と限界、
社会権規約(社会保障、健康権、居住権を中心に)、
強制立ち退きに対するセーフガードについて(カンボジア
の事例紹介)、
健康権に関する日本の人権状況とその分析(公害、
薬害、原発事故、震災後の人権)、
拷問禁止条約の拷問の定義、
拷問禁止条約に関するアメリカの解釈宣言の有効性、
ロマVsモンテネグロの判例、
ピノチェトの事例をもとにユニバーサル・
ジュリスティクションについて説明、
ということで、それぞれ(知る人ぞ知る) この分野ではかなり
高度な分野の事例を扱い、その一方で、条文をすべて
マスターするよう心掛けてきました。
これからは人種差別撤廃条約や、ロヒンギャ問題、
女性差別撤廃条約にも触れる予定ですし、プレゼンも
してもらいます。
準備もものすごく大変ですけれど、学生にとっても超過密です。
でも、がんばってついてきてくれています。
私にとっても改めて勉強し直す良い機会です。
これまでは、「人権条約の締約国でない、軍事政権下に生きる自分たちにとって人権条約は何の役に立つのだろう」という無力感や憤りを示す学生もいました。今年も、そういう意見もありますけれど、それでも未来に少し展望が出てきて、自分たちが頑張ることによって変えられるのだ、という自身のようなもの、そして決意が学生達の中にある、とても強く揺るがないものが学生達の中にあることを強く感じています。
みんな3月にはビルマに帰国して弁護士または人権活動家になるので、帰国後即必要な人権の知識を、滞在中に出来る限り伝えたいと思っています。
彼らこそ、国際的に確立された人権を今こそ必要としている人たちなのですから。
今、ここでやっていることがそのままビルマの民主化と人権に結びついている、その歴史的な意味を感じながら、本当に厳粛な気持ちで、毎日、終日の講義に臨んでいます。