温度差と人権侵害の構造について考える。
などの問題が論点となる。いずれも検証し、かつ未来に向けて提言すべき重要な問題だ。しかし、このようなことについて議論している女性たちには、震災の深刻さを感じさせない復興に向けた明るさがあるように思う。
特にNGO関係者や支援者には、勢いすら感じる。
しかし、そもそもNGO関係者・支援者やこの種企画の主催者と被災者の間に温度差があるのではないか?
それがひとつの問題である。もっと人々は生存そのものに困っているのではないだろうか。
震災とジェンダーということで語られている諸問題のうちのすべてといわなくともいくつかは、実はもっと深刻な課題の派生論点なのではないだろうか。
また、こうしたことを研究している研究者の方々がいるが、思い切っていうならば、被災地に行って被災女性の声に耳を傾けたり、そのために尽力したりすることもなく、「調査・研究」をして自分の研究成果にしているだけ、という人もいるのではないか。
それは、被害をexploitationしていることではないか、と思う。(そのため、実践を伴わない大学からの依頼は極力お断りしている)。
ジェンダー等を研究するエリートの研究者の方々と、現実の救済を求める人たちの間の拭いがたい格差を感じる。政府の審議会に「女性」として並ぶのは、大概、そうしたエリート女性なのではないだろうか。
もちろん実践もする尊敬できる方々もいるけれど、なんだかこの関係では、腹が立つことも少なくなかった。
そして、もう一つは、冒頭に取り上げた、福島と宮城・岩手の違いである。
宮城・岩手は避難というフェーズが終わっているのに、福島は、避難すらできない状況である。あまりにも深刻な放射能汚染にも関わらず、正確な知識も提供されず、例えば妊婦は2mSV以上の放射能を受けてはならないというのは法律上の義務なのに、厚労省は「避難指示を受けた地域(年間20mSV以上)以外では妊婦の方は何の問題もありません。普通に暮らしてください」というパンフを配る。
「死の街といってやめさせられた大臣がいましたが、福島は本当に死の街です。それが実情です。私たちは福島県全体が見捨てられ、見捨てられるだけでなく実験対象のモルモットになっているという気持ちでいます」と、福島から来た女性が訴えていた。
それでも話題の中心や焦点にそのことがなっていかない。質問もほかの問題に集中したりする。
日本のなかに極めて深刻な人権侵害が進行中である、その意識がない。
人権侵害が継続していく構造は、世界でも日本でも変わらない。人権侵害の被害者が少数派であること、被害者が沈黙させられ、またはその声がほとんど無視されていること、人々が関心を持たないことである。
だから、人権やジェンダーについていつも発言したり議論したりしている人たちすら、この問題に沈黙したり無関心である、という事実、そのことがとても怖い。
ヒューマンライツ・ナウは、福島の問題を一貫して取り組んでいるが、人権NGOのなかで、福島の問題を人権問題としてとらえ、活動している団体は圧倒的に少数であり、主要な国内NGOのなかには存在しない。
問題が深刻すぎると、自分たちが扱っているいつもの問題でないと、想像力が働かず、足がすくんでしまうのだろうか、、、
もうひとつの温度差は、支援者・支援NGOとのスタンスの違いである。
私が人権について政府への要請などについて語ると「政府を待っていても何もしてくれない」「いい加減お上意識は捨てて、自分たちで資金を獲得して支援を進めたい」という人もいる。しかし、人権の履行義務を政府に求めることを「お上意識」というようなことでよいのか? この半年以上、政府が無策で腹が立つのは事実であるが、それでも政府に義務を果たさせることをあきらめてはならないと思う。
お上を待たずに民間でやっていこうという発想にNGOがやすやすと乗ってしまったら、いわゆるレーガン・サッチャーのころからの「民間活力導入」、小泉「郵政民営化」・・つまり新自由主義的な発想がNGOにも深く浸透していくことになる、落とし穴である。
それが本当に被災者の人の求めていることなんだろうか?
福島の人たちの避難の権利を実現するには政府に国家政策を変えるよう求めていく必要がある。賠償スキーム、国家的支援体制を求めていかなければならない。
被災者の方々が孤独死や餓死などに陥らないようにするための施策を考えるときも、国の責任をあいまいにしてはならない。
そのことは決して「お上意識」などではない。そんなことも履き違えた人たちが増えてきたなんて、絶望的な話である。
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