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2010年10月18日 (月)

ジュネーブ人権理事会・決議の舞台裏

この間にひきつづき、先月のジュネーブ人権理事会の報告、今回は少しディープな舞台裏のお話です。

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国連人権理事会報告  3
人権理事会・決議採択の舞台裏
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前回に引き続き、ヒューマンライツ・ナウの伊藤事務局長が、9月22日より、ジュネーブで、国連人権理事会第15回期会合にオブザーバー参加した報告をお伝えします。
今回は、どのようにして人権理事会の決議が出されるのか、そしてそこでNGOがどのような役割を果たすのかについてご報告をしたいと思います。
以下に書いてあるのはかなりが雑感ですが、是非雰囲気をご理解いただければと思います。

1  国連人権理事会は三週間開催されますが、早ければ第一週、そして主に第二週目から、採択される決議案をめぐって理事国の活動や、NGOの活動などが活発に展開されるようになります。

   人権理事会で採択される様々な決議はまず、「スポンサー」、すなわち提案国や提案国グループによって決議の案が示されます。

  提案国らは、人権理事会の正式会合の傍ら、ジュネーブの国連欧州本部内で「非公式なコンサルテーション」会合を公開で開催し、そこに各国政府やNGOを招待して決議案を提示し、参加者の意見をもとに決議が多数で採択されるよう修正を図り、意見を持つ国の政府と交渉を繰り返し、採択に向かいます。
    例えば日本は今回、例年同様「カンボジアの人権に関する技術協力に関する決議」の提案国となり、決議案を示して「非公式なコンサルテーション」会合を開催して決議案を確定するという作業をし、決議が採択されました。また、日本は今回、ハンセン氏病とその家族に関する差別の撤廃に関する決議案を提案し、採択されました。
   また、パレスチナの人権問題の決議については、後述するイスラム諸国会議機構(OIC)が提案国になる場合が多いといえます。
2  NGOは、こうした会合に参加して情報を収集し、その場で意見を言う機会がある場合もありますが、多くの場合は提案国や、決議に反対の場合は考えを同じくすると考える各国政府に働きかけて、決議の内容をよりよいものにしたり、決議の採択を阻止するなどの活動を会議の合間に行います(これが国連の会議中やその間に会議場のロビーで行われることから、彼らの活動は「ロビー活動」と言われるのです)。

  影響力のあるNGOはこうしたコンサルテーションにこまめに出席し、情報収集し、各国の態度についても観察し、情報収集しています。
    ジュネーブを本拠とするNGOは、毎朝欧州国連本部で配布される人権理事会と非公式会合の予定表を見て、これは重要と思われる会合に片っ端から参加して情報収集する、という大変地道な活動を展開しています。

  決議をめぐる非公式のコンサルテーションでは決議案が配布されますので、それを入手して情勢を分析し、NGOの本部と連絡をとりあって、態度を決め、ロビーの方向性を決めるのです。
   こうして情報収集に努めているため、各国よりもNGOのほうが情報をよくつかんでいることも少なくありません。情報通となったNGOは各国政府に求められて情報を提供して信頼を得る一方、自らの意見を各国政府に伝えていきます。そして、理事国とNGOがパートナーシップを組んで、人権のために役割を果たそうとするケースも多く見られます。
    また、国連協議資格を有するNGOは国連人権理事会の会議場で公式に発言する機会を保障されており、また、理事会の会期中に「サイドイベント」を開催することもでき、そのような方法で今最も注目すべき人権問題に関する注意を喚起するなど存在感を示し、各国政府の投票行動に影響力を与えます。

  特に、重要な問題については、こうしたNGOが「共同声明」を発表して理事会の会議場で発言をして市民社会の一致した意思を示し、アピールを行います。ヒューマンライツ・ナウは現在協議資格申請中ですが、一日も早く協議資格を取得して、こうした活動に加わりたいと考えています。
3  国連加盟国は、イスラム諸国会議機構(OIC)、アフリカ連合、ヨーロッパ連合、非同盟諸国連合などのグループをつくって意見表明をしているところが少なくありません(国連の正式な地域グループと必ずしも一致していない)。
   日本は地域グループではアジア・グループに入りますが、主に「JUSCANZ」というグループ、つまり日本、米国、カナダ、オーストラリア、ニュジーランドというグループにも参加しています。こうしたグループごとに結束して意見集約を図って発言し、投票行動が決められることがしばしばあります。
   人権理事国では、先進国と途上国の間で対立が根深い状況です。
   現象的にいえば、EUなどが特定の国の深刻な人権状況について議題として取り上げ、決議を採択したいと考えて行動するのに対し、アフリカ諸国やOICはこうした特定国の人権状況について議題にすることに消極的です。
     ただ、パレスチナ問題についてはこうした姿勢が逆転し、途上国がパレスチナ問題の人権理事会決議に賛成するのに対し、先進国は棄権や反対の態度を表明する傾向があります。
    こうしたなかで、途上国が数において多数を占めるために、特定国の人権問題の決議については、一部の例外を除いて特定国の人権状況に関する決議は通りにくい状況にあります。
    そのため、例えばビルマやイランなど、深刻な問題を抱えている国の人権問題に関する討議の舞台が人権理事会でなく国連総会になり、後者のほうがより強力な決議が採択されることが少なくありません。

   一方、今回もそうでしたが、パレスチナ問題に関する決議が人権理事会で採択される場合、欧米諸国が反対か棄権に回り、日本も棄権に回る傾向があります。しかし、それでは、人権侵害の当事者から、人権理事会の決議はパレスチナ問題に関しての一致した国際社会のメッセージとはいえない、と受け止められることになりかねず、決議のインパクトは薄いものとなってしまいます。
   こうした投票行動を正当化するため、それぞれの国が当然のことながら様々な説明をしています。
     しかし、私は、スーダンやスリランカ、ビルマなど、アフリカやアジアの人権問題に対してあれほど熱心に取り組むヨーロッパ諸国やアメリカが、パレスチナ問題では「決議が一方的だ」などとして消極的なのは、人権に関するダブルスタンダードとの非難を受けてもやむを得ないと考えています。また逆もしかりです。

    国際人権NGOの多くは、どの国の人権問題であっても、ダブルスタンダードに陥ることなく理事会の場で取り上げるように求めていますが、それを実現していくのはなかなか困難です。
    こうしたなかで、独自の動きが注目されるのは、近年人権分野での前進が著しいラテン・アメリカ諸国です。今後ラテンアメリカ諸国が普遍的かつ公平に世界の人権問題に取り組み、キャスティング・ボードを持つことが期待されます。
     そうしたなか日本はどうでしょうか。確かに、日本はカンボジアの人権問題に関する決議など、地味ではあるが重要な課題に取り組んで役割を果たしているということができます。
     しかし、ガザの問題をはじめ、本当に対立の根深い人権問題について調整役のイニシアティブを発揮する姿はあまり見られません。また、全体の議論をリードするというより、周囲の様子を見て自らの投票行動を決める、という場面が少なくないように思います。
     政権交代の前後で、こうした態度はさほど変化がないように見受けられます。
こうした日本の姿勢は、国内的な人権保障政策が高いレベルと見識に基づいているとはいえない状況や、国際的な人権の議論に対応した国内での議論の未成熟を反映したものではないかと思います。
    日本の人権政策を内政・外交とも転換して人権を主流化し、欧米と途上国の対立の間にあって揺れる人権理事会にあって、公平な解決を求めるイニシアティブを発揮していくことが期待されます。
                                     (第三回報告 以上)

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