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2010年6月14日 (月)

インド 最悪の形態の児童労働

 先々週のインド事実調査ミッションについて、ようやく、ヒューマンライツ・ナウのメールニュースで皆様にお伝えしました。その内容を転送させていただきます。

 まさに、現地まで無理をして行ってみないと知りえない、驚愕の世界の実態。一人でも多くの方に知っていただき、解決策について一緒に考えてほしいと思います。

 ○   ○   ○   ○   ○   ○   ○

 ヒューマンライツ・ナウでは、5月29日から6月5日にかけて、現地NGOの協力を得て、
インド東北部メガラヤ州で、極めて深刻な児童労働の現地調査を行い、5日にデリーで記者会見を行いました。
六名の調査団が確認したのは、ネパールやバングラデシュから、多くは人身取引の形態でインドに連れてこられた15歳以下、場合によっては10歳以下の大
量の子どもたちが、危険極まりない炭鉱労働を強制され、相次ぐ事故で命を落としている「最悪の形態の児童労働」でした。
調査団のデリーでの記者会見の際のプレスステートメントをご紹介いたしますので、ご確認ください。

http://hrn.or.jp/activity/area/cat25/-hrn/
また、写真もウェブサイトに掲載しています。

http://hrn.or.jp/activity/700n/index.php

 今後、ヒューマンライツ・ナウでは、現地NGOと共同して、報告書作成、報告会開催などをして問題を訴えていくとともに、解決のために現地政府、国際
機関などにも働き掛けていく予定です。
 報告会や記者懇談会などの予定は追ってご連絡させていただきますので、ぜひ皆様関心を持っていただき、ご協力いただきますようお願いいたします。

                ヒューマンライツ・ナウ事務局



1. 東京に拠点をおく国際人権NGOであるヒューマンライツ・ナウ(HRN)は、5月31日から6月2日にかけて、インド・メガラヤ州の州都シロンに
拠点をおくImpulse NGO Networkと共に、メガラワ州のJaintia Hillsの炭鉱とその周辺で、著しく有害かつ危険な児童労働
の実態を調査する調査ミッションを行った。
   HRNの事実調査ミッションは、3地域の炭鉱を3日かけて集中的に調査した。私たちは炭鉱の労働者、子どもたち、家族、スーパーバイザー、マネー
ジャー、所有者を含む45名の人々への聞き取り調査を行った。その45名の中には、炭鉱での労働に従事する12歳と13歳と14歳と15歳と16歳の子
どもたちがそれぞれ3名ずついた。私たちはまた、同じく炭鉱で働く17歳の子どもたち5名及び、18歳の子どもたち6名からも聞き取りを行った。私たち
は、本ミッションに関係した全ての方々に対して、ご協力に深く非常に感謝する。

2. 事実調査の結果、HRN事実調査団は、Jaintia Hillsでは個人が所有する炭鉱において、極端に危険かつ残酷な児童労働が広く行われて
いることを確認した。こうした労働に従事させられている子どもたちのうち多くは、ネパールやバングラデシュから人身売買としてインドに連れてこられた子
どもたちである。
   14歳以下も含む、こうした子どもたちの多くが非常に危険な労働環境の中で、さながら奴隷のように扱われている。彼らは搾取され、賃金は成人の半
分しか貰えないのが普通である。

HRN調査団は、この児童労働について以下の特徴点を強調したい。

第一に、この地域で児童労働に従事する子どもたちは、著しく低年齢である。私たちは、炭鉱で働く12歳と13歳の子どもたちそれぞれ3人から聞き取り
調査を行っている。12歳の少年は、私たちに対して8歳の時から働いていると語った。8歳から10歳までの間、彼は石炭の採掘のため、炭鉱の最深部で働
かせられていたという。ここにいる子どもたちは、多くが8歳から10歳のうちに外国から連れてこられたため、帰路につく道程を思い出せずどんなに炭鉱労
働を嫌悪し恐怖していても、留まって働くしかない、とある労働者は語った。

第二に、炭鉱での労働環境は極端に人体に有害でありかつ危険である。子どもたちは長い時間、石炭を採掘するために炭鉱の奥深くの、"鼠穴"のような場
所に入る必要がある。この穴は地下深いところに非常に長く展開しており、そこにはわずかな酸素しか無い。はしごを上り下りするのも危険であるが、この穴
の中に入るのも大変危険である。採掘は原始的方法で行われ、事故から労働者を保護する為の安全措置も一切講じられていないため、労働者の生命と安全は常
に危険に晒されている。

私たちは労働者らから、死亡事故や身体損傷があとを絶たないと証言した。しかしながら、子どもがこうした事故で亡くなった場合、その事実は報告されな
いし、炭鉱の所有者は一切の補償もせず、医療費も負担しない。

第三に、こうした児童労働の背景には人身売買が絡んでいる。ネパールやバングラデシュからきた子どもたちについては、人身売買のブローカーが関与して
いることが多い。また、子どもたちはほとんどの場合、だまされて連れてこられている。子どもたちはたいてい、ただ単に働くだけ、あるいはただ単にお金を
稼ぐだけだと説明される。彼らが、過酷で危険な労働環境の現実を知るのは、現場に到着した後なのである。しかし、帰るための資金も無い彼らに選択肢など
無く、連れてこられた場所で奴隷のように働くしか道が無い。

第四に、私たちは超法規的な処刑を含む人権侵害が行われているという情報を得た。子どもたちを含む労働者は、懲罰としてしばしば炭鉱の鼠穴に入れら
れ、蓋を閉められたまま放置され、酸素欠乏で死亡する。こうした行為は意図的な殺人であるにも関わらず、責任者たちが司法の場で裁かれたことは今だかつ
て一度も無い。こうした処罰方法が、炭鉱で働く他の子どもたちに恐怖を与え、ゆえに、彼らは逃げ出したり逆らうという選択肢がないまま、命令に従うよう
に強制されるのである。

第五に、子どもたちの住環境は非人間的かつ、非衛生的である。人々は不衛生な場所に住み、清潔な飲み水も供給されず、下水道も備えられていないため、
そこに暮らす人々は結果的に様々な疾患に罹ることになる。さらに、雇用主は一切の医療設備も設けていない。炭鉱で働く子どもたちには、学校に行く権利す
ら与えられていない。

児童労働に従事する子どもの数は定かでない。Impulse NGO Networkによれば、こうした子どもの数は推定で7万人に上るという。しか
しながしながら、実はもっと多くの数の子どもたちが炭鉱での労働に従事していると考えられる。私たちがこうした推測をする理由としては、私たちが聞き取
り調査をしたマネージャーは、この地域には10万の炭鉱があると証言しており、また私たちはいくつかの大規模な炭鉱では25名前後の子どもたちが働いて
いるのを目撃したからである。

このように、Jaintia Hills全体で、奴隷に近い状態での児童労働が広くはびこっていることは明らかである。

3. 残念ながら、こうした極めて深刻な現実に対処しようとする動きや取り組みが、中央政府や州政府によって行われているという報告は全くない。
Impulse NGO Networkによると、彼らが関連省庁である中央政府の社会福祉省や労働省、さらに国家人権委員会にも、この問題について公
的な情報提供を行ったにも関わらず、これまでいかなる措置もとられてはいないということである。
インドには、児童労働に対処するための多くのメカニズムが存在するが、これらのメカニズムはほとんど現状を変えるインパクトを有していない。

   メガラヤ州では、子どもを児童労働から守ることを責務とした査察官たちを任命している。しかし、査察官たちによる炭鉱へのいかなる調査も指導も報
告されていない。

4. このような現状は国際法にもインド国内法にも違反する。
第一に、これは、インドが批准しているILOの最低年齢条約No.124 (1965)に対する重大な侵害である。炭鉱での労働について"最低年齢
は、いかなる場合にも十六歳未満であってはならない"とする同条約に明らかに違反している。また、これは14歳以下の児童を炭鉱及び他の危険な環境での
労働に従事させることを明白に禁止しているインド憲法24条及び児童労働禁止法にも違反している。

第二に、現状は自由権規約、社会権規約、子どもの権利条約などの国際人権条約に対する深刻な違反である。

如何なる安全措置も無いまま、非常に過酷で危険な労働をすることで、多くの子ども達が不慮の事故によって命を落とし、また傷を負っている。さらに、超法
規的処刑まで行われている。これは、生命に対する権利 (自由権規約第12条、子どもの権利条約第6条)に対する重大な侵害である。また、児童労働は教
育を受ける権利(社会権規約第13条、子どもの権利条約第28条)はもちろんのこと、安全な水や衛生へのアクセスを含む健康に対する権利(社会権規約第
12条、子どもの権利条約第28条)をも損なうものである。

また現状は、危険で有害な仕事から守られる権利(子どもの権利条約第32条)、人身売買を阻止するために全ての措置を講ずべき締約国の義務(同第35
条)、搾取や子どもの福祉にとって有害な事象から保護される権利(同第35条)のいずれの規定にも違反している。

自由権規約、社会権規約、子どもの権利条約の締約国として、インド政府は領域内の、子どもを含む全ての人々の人権を尊重・保護する義務を負ってい
る。

私人が重大な人権侵害を行っている場合、政府は、子どもを含む個人をこうした人権侵害から保護する責任を負う。具体的には、人権侵害を防ぐために有効
な対策を講じ、ひとたび人権侵害が発生した場合はこれを調査し、加害者の訴追を含む全ての必要な措置を講じなければならない。


今回の事実調査を踏まえ、ヒューマンライツ・ナウは、以下のとおり提言する。


1.インド政府とメガラヤ州政府への提言
●被害者が完全に参加した下で、Jaintia Hillsにおける児童労働と人権侵害の現状に関し、徹底的で、効果的かつ透明性のある総括的調査を即
座に行うこと。

●現代的形態の奴隷制に関する国連専門家、人身取引に関する国連専門家、超法規的、即決、あるいは恣意的な処刑に関する国連特別報告者のような国連の専
門家や、ILOの事実調査団のような国際的なモニタリングを招致し、受け入れること。

●子どもたちを奴隷のような労働から即座に保護、救済し、リハビリ/教育/原状回復/賠償などを含めた効果的な救済策を講じること。

2.インド政府への提言
●インド憲法と児童労働禁止法、そしてILO条約No.123を確実に実施すること。

●児童労働と人身売買の原因、性質、程度に対する現状認識を国家レベルで包括的に深め、関連する法律と条約の履行状況を分析し、法が機能不全に陥ってい
る原因を解き明かし、問題を解決するために全ての必要な措置を講じること。

●最低年齢に関するILO条約No.138、及び最悪の形態の児童労働の禁止に関するILO条No.182の批准を行うこと。

●人身売買から子どもを保護するために、不道徳取引防止法の対象範囲を広げすべての形態の子どもの人身売買を処罰対象とすること。

●子どもの人身売買の防止/保護/訴追に関して、ネパール及びバングラデシュの政府との二国間協定を制定すること。

3.重大な人権侵害状況を踏まえて、私たちは国際社会に対して、この問題への注意を喚起し、早急に対処策を講じることを求める。
特にHRNの事実調査団は

●国連の専門家、例えば現代的形態の奴隷制に関する国連特別報告者、人身取引に関する特別報告者、超法規的、即決、あるいは恣意的な処刑に関する国連特
別報告者が、Jaintia Hillsに事実調査ミッションを行うこと。

●ILOが現状に対する調査を行い、介入すること。

4. 最後に、HRN事実調査団は、世界中のビジネス・コミュニティーの注意を喚起したい。なぜなら、この問題はビジネスと無関係ではないからであ
る。
   いくつかの情報源によると、Jaintia Hillsで生産された石炭はバングラデシュに輸出され、世界中の第三国に売られていくという。私た
ちは、世界中の少なくない企業が、これらの石炭を買い求めていると考える。

   私たちはビジネス・コミュニティーに対して現状を認識し、"サプライ・チェーン"に敏感になるよう推奨する。私たちは、奴隷労働に等しい過酷な児
童労働によって生産された商品を購入したいと思う消費者はいないであろう。

ここまで述べてきた児童労働の状況は、過去の"Sweat Shop"と何ら変わることがない過酷な実態であると私たちは確信する。

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