「片親引き離し症候群」のうそ
ハーグ条約にも関連しますが、最近DV事件で夫側がよく主張する「片親引き離し症候群」。ハーグ条約を批准せよという欧米の外圧の際にもしばしば引用されています。
これについて昔のブログに書いたものがお引っ越ししていなかったようで、問い合わせも多いのでこちらにアップしておきます。
この症候群の危険性を指摘し、その信用性を否定する論文やステートメントの主要なものは以下のとおりです。
まず、アメリカの家裁裁判官協会がこの症候群の考え方を否定した、というもの。
アメリカ心理学会がこの症候群について公式に支持しない見解を表明したもの
http://www.apa.org/news/press/releases/2008/01/pas-syndrome.aspx
全米法曹協会(ABA)の機関紙に掲載された、この症候群が科学、法律、政策のいずれの面からも明白に認められないとする論文
http://www.jfcadvocacy.org/amicus-briefs/PAS-ABA.pdf
関連する論文
http://fact.on.ca/Info/pas/wood94.htm
です。
以下、過去のブログから~~~
片親引き離し症候群、ってご存知ですか。
DV事件でDVをした夫が子どもに執着して面接を求めるのですが、子どもはDVの影響で精神的に安定せず、とてもあわせられる状況ではない。
そんな状況でも面接を求めてくるわけですが、その際「子どもの精神状態がおかしいのはDVのせいじゃない。そもそもDVなどしていない。子どもの精神状態は「片親引き離し症候群」という精神状態だ。問題は父親と引き離されていることになる。それは父親にあえば
なおるのだ!」という主張なのです。
このような主張をされて、この論理に耳を傾ける裁判所まで出てきてしまい、苦労している離婚の当事者の方は少なくありません。
なんでもアメリカのなんとか弁護士会が提唱しているとか、、、それを翻訳した論文などが証拠として提出されるのです。
でも、それがまったく間違っていることがはっきりしました。
私は「この話、絶対怪しい。アメリカで通用しているといっても一部で通用しているだけじゃないか?」と思い、英語名をグーグル検索してみたところ、2006年くらいまでは確かにアメリカではこの論理に裁判所も振り回されていたけれど、今では、それがまったく信用に堪えないえせ科学であることが明らかになった、という結論を出しているのです。全国の家庭裁判所の協会やアメリカ法曹協会の雑誌にもこの症候群を批判する論文が掲載されています。
法律も心理学ももはやこの理論を採用しない、というのがアメリカではコンセンサスになったのです。しかし、それまでの間、裁判所がこの論理を使って虐待親やDV夫を子どもと面接させたり、親権行使を認めたりして、その結果、子どもが殺害されたり、子どもが自殺するなどの被害がでてしまった、というのです。
恐ろしいことです。いまの時点で発見してよかった。
私と一緒に事件をやってくれている弁護士さんと、インターンががんばってこうした最新の文献を翻訳してくれ、一件の裁判に提出したりしました。
今後、この論文をこの問題に悩む全国のみなさんにも活用していただく方法はないか、
考えているところです。
でも、よくあるんですよね、アメリカの理論だ、とか紹介されてとんでもない間違いが引用されていることが。そういうのにだまされちゃいけないし、海外の法制度や慣行は、専門家が自分の都合のよいところだけ引用するのでなく、本当に誠実に紹介していく責務を持っていると痛感します。
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