国連で「食糧に対する権利」の討論
3月9日、10日、ジュネーブの国連人権理事会では「食糧に関する権利」に関する討論が熱く繰り広げられていました。
先進国は、政治的・市民的権利に集中した議論をしがちですが、一方世界には食べ物が食べられずに餓死をする、栄養失調で死んでいく人々が大量にいるわけです。そういうことこそ、何よりも人々の最も基本的な人権侵害ではないか、という途上国のまっとうな主張を受けて、最近では、人権理事会が議論・研究するテーマとしても、経済的社会的権利が広く取り上げられるようになりました。日本でも派遣切りで、衣食住に困る人たちが出ている今、まったく同じ問題に直面しています。
食糧の権利は、昨年夏の食糧危機をきっかけに一気に注目を集め、人権理事会の主要テーマになりつつあります。
この問題に関して、国連が選任した、独立した専門家-特別報告者は、私がニューヨーク大学ロースクールで国際人権法をみっちりと教えていただいた、Oliver de Shutter氏です(ベルギーの大学教授、パリに本拠を置く国際人権NGO-国際人権連盟FIDHの前事務局長)。当時私は講義で一番前に座って、早口過ぎるこの教授にストップをかけるために、つまらない質問をぶつけたりしておりました。
同氏が、特別報告者となって、とにかく張り切っており、あたかも世界を変えようという勢いがあります。
なぜなら、たとえば
● 開発援助にあたって、援助国は、自らの商業的利益や目的によるのではなく、被援助国の食糧に関する権利を充足する援助をする国際的義務を負い、その援助の在り方は、現地のニーズ・ベースでないといけない、と提言していること
● 現在の途上国の食糧危機、食糧難は、天災ではなく、国際金融機関等国際社会が途上国に強要してきたシステムに基づく人災というべきであり、それを根本的に変えなければならない、特に、IMFなどが、援助の絶対条件として受け入れるよう途上国に迫ってきた
「構造調整政策」(SAP)-- 民間活力導入を目指し民営化を推進する
は全面的に見直さなければならない、としていること
● 途上国に不公正な取引を押し付けて利益を得ている食糧に関する多国籍企業の責任を明確にし、規制しようということも視野においていること、また、食糧を投機的取引の対象とすることを規制しようとしていること(これは将来課題でしょうけれど)
など、
これまで公式的に国連の場で議論されてこなかった、みんなが真実を語るのをはばかって沈黙してきた、世界の根本問題にメスを入れようとしているからです。
途上国を中心に、このような方向性に拍手喝采を送る声が次々と寄せられ、議論は大変盛り上がっていました。
世界各国にODA援助をし、世銀、IMF、ADBなど、国際金融機関の一翼を担っているている日本にとっても避けて通れない課題です。
この問題では注目すべき報告書が積み重ねられていますので、私もきちんと読んで、フォローして行きたいと思います。
こうした研究の蓄積のゴールとしては、人権理事会がコンセンサスを得て決議を採択し、その後それが国連総会決議になる、というかたちで、上記に提案したような論点が国連総会決議に明記され国際社会の総意として採択されることでしょう。さらに発展して、条約のような拘束力のある国際法規にしていこうという動きにまでなるのか、それはわかりません。先進国はかなり抵抗することでしょう。
いずれにしても、新自由主義から脱却し、公正な世界秩序をつくるためのひとつの野心的な試みとして注目していこうと思います。
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