名張事件 「自白は虚偽」弁護団が意見書
今日は京都にいる私ですが、昨日は、担当している名張毒ぶどう酒事件で、最高裁に2通の意見書を提出し、記者会見を東京・名古屋で同時に行いました。以下で報道もされています。
この事件では科学的証拠が被告人と事件の結びつきを否定していて、物証はほとんどない事件なのですが、裁判のやり直しがされないポイントは、被告人が捜査段階で自白した、ということだけなんです。
しかも、その自白も過去に二度(一審の無罪判決と、2005年の再審開始決定)で、「信用性が全く認められない!」と裁判所が明確に判断されています。
ところが、2006年に、自白はあくまで信用できる、として、自白に全面的に依存して有罪判決を維持しようという不当な判断が出されたわけです(名古屋高裁・再審開始取り消し決定)。その決定文をよくみると大変ひどい内容で、「この裁判所は、日本の過去の冤罪事件からひとつも学んでない。まるで、昭和30年代くらいに逆戻りしたような前近代的な判断だ」と唖然とします。
今から15年くらい前、優秀な裁判官たちが集まって、「自白の信用性」という本を出したんですが、そこでは、それまでに裁判所が自白があるからということで有罪にしてしまい、あとで救済した冤罪事件の反省に立って、自白が本当かを判断するために、こういうことを注意しなくちゃいけない、ああいうことも気をつけるべき、安易に自白を信じちゃいけない、ということを全面的に明らかにした本を出して、みんなで徹底しようとしていました。
しかし、すっかり忘れちゃったのか、ここで注意される以前の、きわめてアバウトなやり方で、自白の信用性にOKを出してしまう判断が最近相次いでいて、それが露骨にハッキリとしているのが、名張事件の再審取り消し決定なのです。「のどもと過ぎれば熱さを忘れる」じゃないけれど、本当に反省しない、懲りないんだなあ、と驚いてしまいます。
実はこういう、安易に自白に依拠して有罪判決を出す日本の裁判のあり方は、国際的にも異常だと言われているんですね。10月には、国連から「日本の有罪率が高すぎて、その多くが自白に依拠していることを憂慮する。そうした有罪判決に死刑事件が含まれているから、私たちの懸念は一層深まる。裁判所は、自白ではなく科学的証拠に依拠した判断をすべきである」と勧告されているのです。
というわけで、自白に依拠して死刑判決を維持するのがこの事件においていかに不当か、ということを、意見書に記載しています。
いくらなんでもひどいので、最高裁で正されることを期待しています。これで、最高裁でも正されなかったら、日本の裁判は、たとえ裁判員制度にしてみても、なかなか救いようがない、真っ暗だ、と私は思いますので、目下、がんばっています。
ご支援よろしくお願いします!!
■「自白は虚偽」弁護団が意見書 名張毒ブドウ酒事件(2008/12/4 朝日新聞)
http://www.asahi.com/national/update/1204/NGY200812040001.html
三重県名張市で61年、ブドウ酒に入れられた農薬で女性5人が死亡した名張毒
ブドウ酒事件で、再審を求めている奥西勝死刑囚(82)の弁護団は3日、最高裁
に自白に関する意見書2通を新たに提出した。
意見書は、名古屋高裁が06年に自白の任意性や信用性を認めて、再審開始決定
を取り消したことに対し、弁護団が「自白は虚偽」と反論する内容。国内外の虚偽
自白による冤罪事件を例示したうえで「高裁の決定は、経験則に照らしても評価・
判断に誤りがある」と指摘している。
また、奥西死刑囚が任意捜査の段階で自白していることから、任意性に焦点を絞
って主張。長時間の取り調べや、帰宅後も警察に監視されていたことなどから、「
取り調べは事実上の身体拘束状態だったうえ、心理的な圧力と強制の下でなされた
もので、自白は自発的なものではない」と主張している。
■名張弁護団が補充書提出 毒ぶどう酒事件(日経ネット)
http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20081203AT1G0302W03122008.html
三重県名張市で1961年に女性5人が殺害された「名張毒ぶどう酒事件」で、再審
開始決定の取り消しを不服として特別抗告した奥西勝元被告(82)の弁護団は3日
、「捜査段階の自白は信用できる」と判断した名古屋高裁決定は誤りとする申立補
充書2通を最高裁に提出した。〔共同〕(01:16)
« 冬の京都に行ってきます。 | トップページ | イラク戦争シンポジウム »
「刑事裁判・裁判員制度」カテゴリの記事
- 袴田事件など相次ぐ冤罪の教訓は反映されたのか。法制審・特別部会「事務当局試案」を読む。(2014.05.02)
- 袴田事件の再審開始決定、釈放へ (2014.03.28)
- 米国でえん罪に関する私の論文が発表されました。(2013.10.29)
- PC遠隔操作事件・無罪推定原則を無視した「人民裁判」的な容疑者報道が目に余る。(2013.02.15)
- 東電OLえん罪事件が示す刑事司法改革の課題- DNA鑑定・証拠開示に関する抜本的制度改革が急務である。(2012.11.12)