もうすぐアメリカ大統領選挙ですが、新政権にすぐにやってほしいことのひとつは、キューバにおけるグアンタナモ基地の閉鎖です。この基地に2001年秋のアフガニスタンへの米軍の攻撃の際にたくさんの人々(テロリズムとまったく無関係な人々を多く含む)が連れてこられ、拘束され、拷問を受けている。すでに7年近く経過している。2005年に私はアメリカの人権団体(Center for Constitutional Rights)で、テロと何の関係もないのにグアンタナモ基地に拘束された人々の人身保護請求の裁判などの手伝いをしていたが、グアンタナモ基地で行われている拷問や取扱いがあまりに残虐なので心底驚かされた。この件では、人権団体が提訴して、連邦最高裁が何度も、「軍ではなく、連邦裁判所が、グアンタナモの被収容者の拘束が正当かどうかを判断する。被収容者には裁判をうける権利があり、合衆国憲法の適用がある」と判断しているのに、ブッシュ政権が司法判断をまったく無視してグアンタナモ基地での拷問や拘束を続けている、という異常な事態であった。Al Odah事件(私も当時この件でいろいろと書面を書きましたが)という事件で、ついに2008年6月12日に、連邦最高裁が「大統領も、立法府も、グアンタナモの人々から人身保護請求の権利を奪うことはできない」という判決を出して、やっと、人身保護請求訴訟が始まった状態だ(詳しくは、http://ccrjustice.org/ourcases/current-cases/al-odah-v.-united-states)。グアンタナモ基地の経過はものすごく複雑だけれど、ロースクール生むけの雑誌に紹介した記事(ただし2007年の論文なので、2008年6月12日の最高裁判決や最近の動きはフォローしていないものですが)があるので、貼り付けます。私はグアンタナモ基地にいったことはないけれども、ひとりひとりがどんな拷問を受けたか、といったようなレポートをつくってまとめたりしていたので、一日も早く、彼らが釈放されるように! と思っています。また、グアンタナモだけではなく、世界中にアメリカ政府が秘密の収容所をつくってイスラム教徒にひどい尋問をしています。そうしたことをすべて、新政権が調査し、膿を出し切り、ジュネーブ条約違反を犯した者すべてを刑事裁判の裁きにかけるよう、勇気ある対応を求めたい。
テロリズムと国際人権法
- グアンタナモ基地の実情から
9.11同時多発テロ事件以後、アメリカでは、「テロとの戦い」の名のもとに、いくつもの行き過ぎた人権侵害を伴う行動で世界を驚かせた。そのなかでも国際的に有名なのが、「テロリスト」と疑った者を世界中から、キューバのグアンタナモ基地などの収容施設に拘禁し、非人道的な取り扱いをしている問題である。今回はこの問題を例に、反テロリズム対策と人権について考えていく。
1 グアンタナモ・ベイに収容された人々
9.11同時多発テロ事件後の11月13日、アメリカのブッシュ大統領はひとつの大統領命令を発布する。この命令は、アルカイダの構成員、米国・米国民・米国の外交軍事政策・経済政策に危害を加える活動に関与した者、それらの活動を援助・共謀した者、そのような者を匿った者を「敵戦闘員」(enemy combatant)として、世界中のどこにいても、大統領権限で無期限に身体拘束することができ、国防総省管轄の「ミリタリー・コミッション」で裁くことができるとしている。
その後まもなく、キューバのグアンタナモ湾にある米軍基地(「グアンタナモ基地」という)は、大量の『テロ容疑者』を迎え入れることになる。基地に利用している土地は、アメリカが米西戦争時にキューバから「租借」し、キューバ革命以降のキューバ政府の返還要求に応じず、今日まで米軍基地として利用している。
この基地に9.11事件以後、当時戦闘のあったアフガニスタンだけでなく、他の地域から移送された者も多い。例えば、アルカイダと疑われてボスニアで逮捕された六人のアルジェリア人はボスニア最高裁で証拠不十分を理由に無罪とされたが、米政権のボスニア政権への引き渡し要求を受けて、釈放されることなくグアンタナモ基地に送られた。
それから5年余、約100人以上の人々が釈放されたが、今も、約500名、40カ国以上から来た人々がグアンタナモ基地に拘束されている。彼らの多くは何の裁判も受けていない。米国政府は、安全保障(彼らが自由の身になって米国を攻撃することを防ぐ)と諜報(アルカイダの情報を聞き出す)の必要上、「テロとの闘いの終了まで」(無期限の)拘束するとしている。テロとは無関係なのに拘束された人も少なくないという。
2 非人道的な取り扱い
では、実際にグアンタナモ基地にいる人たちはどんな取扱いを受けているのか。実は、筆者が2005年にインターンをしていたニューヨークの人権団体、Center for Constitutional Rights(CCR) は、このグアンタナモ基地に拘束された約200人の代理人として、様々な活動を展開していた。法的手段としては連邦地裁に対する人身保護請求と米州人権委員会への人権救済申し立て、さらに国連へのロビーや世界のNGOと連携したキャンペーン活動なども行っていた。
筆者は米州人権委員会への報告書の作成を担当し、事件ファイルを通して人権侵害の実態を知った。例えば、2002年にアフガニスタンからグアンタナモに連れてこられたカナダ国籍の少年オマールは拘束された当時15歳であった。2005年1月、彼の弁護士がそれまで知られていなかったオマールに対する米軍の取扱いを明らかにした。彼は、頭巾をかぶせられ、両手錠をかけたまま宙釣りにされ、犬を使って脅された。さらに、米軍曹が彼の胃の上に乗り、足首と手首を彼の背中の後ろに縛り上げられ、彼がついに失禁すると軍曹は地面に油を注いで引きずりまわしたという。
ほかの被収容者たちもみな、殴る、蹴る、棒で叩く、踏むなどの暴力、冷たい室温の部屋への放置、手錠をかけての宙吊り、犬を使った脅迫、銃口をつきつけての取調べ、金属の箱に閉じ込めるなどの物理的拷問を受け、さらに、尊厳と宗教的信念を踏みにじる行為-頭巾を被せる、裸にする、女性軍曹による性的虐待、コーランを汚す、踏みつけるなどの冒涜などにさらされている。
実は、こうした行為は、「許される尋問テクニック」として、米政権上層部によって予め承認されていた。公開された政府内のメモによると、2002年1月から、グアンタナモ基地に拘束された人々に対する「尋問テクニック」はどの程度許されるか、米政権内で議論が始まる。1月25日、ゴンザレス大統領補佐官(当時、現司法長官)は、「この戦争は新しい戦争であり、テロリストを捕獲するために新しいアプローチが必要」とする意見書を大統領に提出、2月7日に大統領は、捕虜の人道的取扱いを定めたジュネーブ第三条約の適用はタリバン・アルカイダには適用がないと判断。これを受けて国防総省内で「許される尋問テクニック」の検討が進み、「起立など、ストレスのかかる姿勢を4時間連続してとらせる/犬への恐怖などの嫌悪感を利用する/衣服を脱がせる/30日間隔離/20時間連続取調べ/照明の排除/ 環境調整(温度調整・悪臭の導入)/ 睡眠時間調整」は「許されるもの」とされた。 アメリカは、「拷問禁止条約」を批准しており、同条約では、拷問を「情報・自白収集、処罰、脅迫・強要等を目的として、身体的または精神的に、人に重い苦痛を故意に与える一切の行為」と定義し、国に拷問を防止する義務を課す。しかし、アメリカは、拷問とは、重い身体的・精神的苦痛を与える具体的な意図を持ってなされ、かつ精神的苦痛・症状については、長期的な精神障害を引き起こすことを具体的に意図した場合に限定される、という極めて狭い独自の定義を採用し、これに当たらない行為は「拷問」に該当しない、として、上記の尋問テクニックを承認したのである。
3 司法と米軍・議会の攻防
2002年2月、CCRは他の人権団体に先駆けて、グアンタナモ基地の無実の被収容者の釈放を求めて、連邦地裁に人身保護請求を申立てた。2004年6月に連邦最高裁は、「グアンタナモの被収容者は人身保護請求手続によって、自らの拘束の適法性に関する法的審査を受ける権利を有する」という常識的な判決を下す。 この決定の直後、CCRは直接コンタクト出来ない者を含めた約200人の代理人となって人身保護請求訴訟を拡大させていく。最初は、弁護士が依頼人に会いにグアンタナモ基地に行って面会することすら拒否され、また接見の全てを国防総省が録画モニターするなどの制限があったが、弁護士たちは憲法上の「弁護人選任権」の実現を求める裁判で勝ち、自由な接見が認められるようになっていった。
ところが、米政府は、最高裁決定を無視して人身保護請求手続に協力しない態度をとった。軍人を判断者とし、連邦最高裁への不服申し立てができない特別法廷を設立して、グアンタナモ被収容者の身柄拘束の正当性をこの特別法廷に裁かせることにし、連邦裁判所での人身保護の審理を空転させてしまったのだ。
2005年の夏、我慢の限界に達した被収容者たちは、待遇の改善をもとめて、ハンガー・ストライキを開始し、その規模は200人規模となる。その中には少年オマールもいた。それでも待遇が一向に改善しないため、被収容者は餓死寸前の状態となったが、なかには絶望して食事をすることを止め、「餓死」を選ぶ人たちも出てきた。米軍は、餓死の危険のある者を病院に収容し、鼻にチューブを通して強制的に栄養を摂取させたりした。こうした事態は長期間家族にも弁護士にも知らされず、ある日、面会した弁護士は、変わり果てて歩くことも出来なくなった依頼人たちの痛ましい姿に衝撃を受けた。 絶望した依頼人の首吊りなどの自殺未遂も起こった。
2005年12月には、米議会で突然、人身保護法が改正され、「米国防総省が『敵戦闘員』としてグアンタナモに収容している者に対しては、裁判所は人身保護請求の審査を行うことはできない」とする改正案が上下両院を通過してしまった(議員立法)。 「グアンタナモは米国領土でないから、合衆国憲法は及ばない」という理由で、司法における人権論争を封じ込めるものだった。米政府はこの法律を受けて、連邦地裁に申し立てられた全ての人権保護訴訟の棄却を求めた。
4 テロとの戦いと人権
こうしたグアンタナモ基地の事態はメディアでも毎日のように取り上げられ、「国際人権のスタンダードに反する」と世界から批判を浴びる。ここで、国際人権法に目を転じ、どんな権利が問題になるか、テロとの戦いを理由に制約できるのか、を見ていこう。
(1) まず、そもそも「テロとの戦い」を理由に、人権を制約することは許されるのだろうか。
同時多発テロ事件直後、国連安全保障理事会は、決議1373(2001年)を採択し、「テロによる国際平和と安全に対する脅威と戦うため全ての必要な手段をとる」と宣言した。 国には、テロリズムによる無差別攻撃から国民の生命・安全を守る責務を負う。国は、自由権規約の規定する「生命の権利」(規約6条) を保障するため、この権利を自ら侵してはならないとともに、第三者の侵害からも守る義務を負うからである。しかし、テロ対策の手段は無制限ではない。2003年に安全保障理事会が採択した決議1456は、「テロとの戦いにおいて、国際法、とりわけ国際人権法、難民法、国際人道法上の義務に従うためあらゆる手段を尽くさなければならない」と明記する宣言を出した。全ての国は、テロ対策にあたって、国際人権法上の義務に違反する措置を取ってはならないのである。
(2) では、グアンタナモ基地での被収容者の取扱いは、アメリカの国際人権法上の義務との関係でどこが問題となるだろうか。グアンタナモ基地では様々な人権侵害が指摘されているが、ここではもっとも根本的な国際人権法上の義務との抵触を指摘する。
① 身体拘束
アメリカは自由権規約を批准しており、その9条1項は、「すべての者は、身体の自由及び安全についての権利を有する。何人も、恣意的に逮捕され又は抑留されない。」と規定、9条4項は、逮捕などにより自由を奪われた者に対し、その身体拘束の合法性について裁判所で争い、司法判断を受ける権利を保障する。また、規約14条 第1項は、すべての者は「権限のある、独立の、かつ、公平な裁判所による公正な公開審理を受ける権利を有する(14条1項)」とし、14条2項は無罪推定、14条3項は主に刑事事件におけるデュープロセスの保障として、防御権、弁護人選任権、黙秘権、反対尋問権や上訴の権利の保障などを定めている。
従って、グアンタナモ基地の人々は、自らの拘束の合法性について、裁判に訴えて争う権利が認められるべきであり、その裁判はデュープロセスと上訴の権利が保障されるものでなければならない。
② 人道的な取扱い
拷問・非人道的な取扱いは、自由権規約と拷問禁止条約で絶対的に禁止されている。自由権規約第7条は、「何人も、拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰を受けない」とし、規約10条は 「自由を奪われたすべての者は、人道的にかつ人間の固有の尊厳を尊重して取り扱われる」とする。拷問禁止条約は、全ての拷問の防止を締約国に義務づけており、特に「戦争状態、戦争の脅威、内政の不安定又は他の公の緊急事態であるかどうかにかかわらず、いかなる例外的な事態も拷問を正当化する根拠として援用できない。」(2条の2) として、戦争・緊急事態にあっても拷問の絶対的禁止はゆるがないことを明確にしている。グアンタナモ基地の被収容者は、たとえテロ容疑者であっても、拷問を受けてはならない。
アメリカは、グアンタナモに拘束した人々について、上記いずれの義務にも違反しているということができる。
5 国連の動き
米国内での救済手続きが袋小路に陥っていた2006年の2月に、国連のシステムが動き出した。国連人権委員会は、特別手続の一貫として、テーマ別・国別の重要な人権問題をフォローするため、独立した専門家を「特別報告者」に任命し、人権問題の調査に携わらせている。「拷問」「恣意的拘禁」「宗教的自由」「身体的精神的健康に関する権利」「司法の独立」という5つのそれぞれのテーマで世界の人権を調査・報告するよう国連から任命された特別報告者たちは、2002年以降、それぞれ独自にグアンタナモ基地の状況をフォローしてきたが、2004年にグループとして行動することを決めた。
2005年秋、5人の特別報告者は国連総会第三委員会でグアンタナモ基地の問題への憂慮を表明、同基地への査察を強く要求した。米国はついに特別報告者たちのグアンタナモ基地への訪問することを認めるが、被収容者に対するインタビューは拒絶した。5人の特別報告者たちは、インタビューが認められないような視察は特別手続の趣旨を損なうものだとして、グアンタナモ基地への訪問を取りやめ、代わりにヨーロッパ等に在住する元被収容者や弁護士などに対する徹底した調査を行ない、5人共同での報告書作成をすることを決めた。こうして5人の特別報告者によるグアンタナモ基地に関する共同の報告書が2006年2月16日、国連に提出した。
この報告書の概要は以下のとおりである。
1) グアンタナモ基地の事態には、国際人権法が適用される。
報告書はまず、米国の国際法上の義務(自由権規約等に保障された人権尊重義務)を明記し、米軍がコントロールを及ぼしているキューバ・グアンタナモ基地はたとえ米国領土でなくとも、米国の人権尊重義務が及ぶ、と明記する(報告書には、前回紹介したパレスティナ占領地におけるイスラエルの人権尊重義務を認めたICJ判決が引用されている)。そのうえで「国際人権法は、全ての場合に、たとえ緊急事態や武力紛争下でも適用される」とした。さらに、報告が「『テロとの戦い』は現実の「武力紛争」に該当しない」と明記したのが注目される。アメリカは、「テロとの戦い」を通じて行った全ての行動について国際人権法は適用されず、国際人道法だけが適用される、という態度を採って来たことから、この分析は重要である。
2) 米国は緊急事態を理由に人権保障義務を後退させることができない。
報告書は、自由権規約4条が規定する、国家の緊急事態における人権保障義務の後退について検討する。後退措置をとろうとする国は、国連事務総長を通じ全締約国に通知をしなければならないが(規約4条の3)、アメリカはこのような通知を行っていないことを報告書は指摘する。
そのうえで報告書は、規約4条の認める後退は「国家存亡の危機の場合に許される、一時的・例外的措置であり、他の方法で目的を達成できる場合は人権保障の後退は許されない」とする。そして、自由権規約は、生命の権利、拷問・非人道的取り扱いを受けない権利、思想・良心・宗教の自由などの権利は、戦争のような非常時であっても保障を後退させることができないと明記していること(同4条)を注意喚起し、さらに、同4条に関する一般的見解29が「手続き的セーフガードは、4条に明文はないが、後退措置が許されない」と規定していることを紹介し、「自由権規約9条および14条の重要な要素、即ち人身保護請求の権利、無罪推定、最低限の公正な裁判を受ける権利は、国家の緊急事態においても全面的に尊重されなければならない」とした。対テロ戦争を巡って、拷問や裁判を経ない拘禁が世界で問題になっている現在、自由権規約9条、14条の重要な権利を対テロ戦争においても後退させることができない、と報告書が確認したことは非常に重要である。
3)無期限拘束について
以上を前提に、報告書は、グアンタナモ基地の人々が、身体拘束について司法判断を受けられないことを自由権規約9条・14条違反であると指摘し、アメリカ政府に「被収容者を速やかに司法の判断に委ねるか釈放せよ」と明確に勧告した。
4)拷問、非人道的取扱い、宗教的権利 健康の権利
さらに、報告書は、国防総省が作成した「許される尋問テクニック」は組み合わせられれば拷問に該当すること、また報告されている有形力の行使およびハンガーストライカーへの強制的な栄養摂取は拷問に該当することを指摘し、さらに拘禁の長期化と、長期の独房への拘禁は、それ自体が非人道的な取扱い(自由権規約10条)に該当すると判断した。報告書はまた、グアンタナモ基地での取り扱いは、宗教的自由、健康の権利に反するという点も詳細に指摘している。
以上を前提に、報告書は、米国政府は拷問に関与した全ての人間を調査し責任者を処罰すべきであり、拷問の被害者には金銭賠償が認められなければならない、と結論付ける。
5) 報告書はさらに「米国政府は、グアンタナモ基地を速やかに閉鎖すべきである」と勧告する。
国連の任命した5人の専門家がそろってグアンタナモの事態を国際人権法違反と報告したことは国際世論に大きな影響を与えた。米国政府は報告書に強く反発したが、アナン事務総長は総論において報告書を支持し、「グアンタナモ基地は早晩廃止されるべきだ」と表明した。米政権が「テロとの戦い」の名の下に行なう人権制約が世界のスタンダードから見て通用しないことが、ようやく国際法の到達点に照らして明確に示されたことは重要である。
5 相次ぐ判断
この5人の報告書提出後、国連拷問禁止委員会は2006年5月の報告で、「起訴もせずに無期限拘束していること自体が拷問禁止条約違反」として、グアンタナモ基地での全ての拘束をやめることをアメリカに勧告した。 2006年6月には米連邦最高裁が、テロリスト容疑でシカゴの空港で逮捕され、ミリタリー・コミッションに訴追されたハムダン氏のケースで、「ミリタリー・コミッションはジュネーブ条約に違反する」と判断した。グアンタナモ基地について政府が強硬な態度をとるなか、国際機関と国内裁判所は相互に良識的な決定を出しあい、「対テロ戦争のもとでも基本的人権を守らなければならない」ことを鮮明に表明している。
9.11以後のグアンタナモを含む人権侵害は大規模かつ、目を覆うばかりの深刻なものであるが、ブレーキをかけ、警鐘をならし続けているのは、国際人権法の原則に誠実に立ち戻り、主張する国連・NGOなどの法律家の活動である。 彼らは、国をあげての反テロ掃討作戦で忘れられがちな少数者の人権を果敢に問題提起し、とても重要な歯止めの役割を果している。
キーワード
テロリズム
テロリズムの明確な定義は存在しない。しかし、120カ国が批准した1999年締結の「テロに対する資金援助禁止条約」は、テロリズムには、「集団を恐怖に陥れて、政府や国際機関にある行為をさせ、またはさせないことを強制する目的で、市民ないし、武力紛争時に敵対行為に参加している者でない者に対し、死や深刻な身体障害の結果をもたらすことを意図して行う全ての行為」が含まれると規定する。
ジュネーブ第三条約(捕虜条約)
捕虜に対する取扱いを定めた1949年に締結された国際条約で、今では国際慣習法としての地位を認められている。捕虜に対し、肉体的・精神的拷問をしてはならないこと、人道的に取り扱うべきことを定め、さらに、戦闘終了後には速やかに釈放されるべきこと(同87条)、権限ある法廷で捕虜としての認定を受ける権利を有することを定める(同5条)。また、捕虜と認定されない者も、殺人、拷問、虐待を禁じられている(3条)。
連邦人身保護請求〔ハビアス・コーパス〕 コモンローによって認められている、被拘禁者が不当な拘禁からの解放を求める訴えの手続。アメリカでは、連邦裁判所がこの人身保護請求を審査することになっており、憲法に違反する逮捕・拘禁から個人の基本的人権を守るために極めて重要な制度として機能している。
ミリタリー・コミッション
2001年11月のブッシュ大統領の命令により設置された、「アメリカの敵」を裁く機関。裁かれる罪の対象は、戦争犯罪、テロ行為のほか、アフガニスタンにおける米軍と同盟軍への敵対行為全て、「米国と同盟国の敵対者」を武器、情報、金銭等の手段で援助し匿うなどの全ての援助行為、これら行為の共謀、未遂全てである。判事、主任検察官、主任弁護人は全て軍人から任命される。 国防総省内部の再審査があるだけで司法機関への上訴の道はなく、仮に無罪判決が出ても、最終的な判断者である国防長官がこれを破棄できる。2006年6月29日、ハムダン対ラムズフェルド事件で、連邦最高裁は、ミリタリー・コミッションはジュネーブ第三条約に違反する、と判断した。
オマール・カードル 15歳のときにアフガニスタンで米軍に拘束され、グアンタナモ基地に送られた少年。少年でありながら、グアンタナモ基地に無期限拘束され、米軍による激しい拷問を受けていたことが、弁護士を通じて明らかになり、世界の衝撃を生んだケースである。彼は今もグアンタナモ基地に拘束されている。
Approval on the techniques outlined in William J. Haynes' November 27's memo,Secretary of Defense Memorandum for the commander, US Southern command of 16 of April 2005 on "Counter Resistance Techniques in the War on Terror"