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2008年11月19日 (水)

アメリカ 無実の人125人が自白

先日、日弁連主催の12月13日のシンポジウムについてご紹介しました。

● シンポジウム 

なぜ、無実の人が自白するのか?

- アメリカの虚偽自白 125事例が語る真実 -

 1 日 時   平成20年12月13日(土)午後1時から5時まで

2 場 所   発明会館

  

アメリカでは、最近、DNA鑑定の発展で、死刑や終身刑を宣告された人が無実だったことがわかり、続々と釈放されています。無実の死刑囚はなんと125人にものぼります。陪審員が誤った判断をした原因はいろいろありますが、その有力な原因は捜査段階の自白が実は強制された虚偽のものだった、ということがあります。

日本でも、来年から裁判員制度が始まり、市民が刑事裁判で有罪・無罪を決めるわけですが、取調べのときに被告人が自白をした場合、それが本心からの自白だったか、それとも強要された嘘の自白だったか、大問題になります。取調べの全面的な可視化(録音・録画)が議論されていますが、まだ実現していません。

そこで、はたして無実の人がなぜ自白をするのか、日本でもそうなのか、といったことが問題になってきます。

そこで、アメリカの専門家- 明らかに嘘であることが判明した125件の虚偽自白について研究したドリズィン教授-に来日してもらい、無実の人がなぜ自白をしたのかについて話してもらいます。

実は、この教授、私は2005年と2008年におあいする機会があったのですが、私が担当している死刑えん罪事件・名張毒ぶどう酒事件に、教授の運営する誤判救済センターという機関が、最高裁宛て、意見書を書いていただいています。

一般公開イベントですので、是非興味を持っていただけた方は、ご参加ください(当日、私は司会をしています)。

以下、シンポジウムの詳細と、名張事件について提出された米国法廷意見書について、私が日弁連発行の「再審通信」というところに寄せた報告文書をご紹介します。

プログラム

第1部      講演「アメリカの虚偽自白125事例が語る真実

講師:スティーブン・ドリズィン教授

第2部      特別報告「免田事件の自白経過」 報告者:免田栄氏

第3部      報告「日本におけるDNA鑑定-再鑑定の保障の必要性」 

報告者:佐藤博史氏

第4部 パネル・ディスカッション

「自白が生む誤判・えん罪の悲劇を生まないために」

 コーディネーター:高野隆氏

 パネリスト   :スティーブン・ドリズィン教授

          桜井昌司氏

          小坂井久氏

【自白評価に関する米国専門家の法廷意見書の提出】

       弁護士 伊藤和子                                   

一、概況

名張事件第七次特別抗告審が最高裁第三小法廷に係属中である。

弁護団は、200612月に名古屋高裁刑事2部が出した、再審開始決定に対する取消決定(以下、異議審決定)の誤り、とりわけ新証拠に対する不当な認定が、科学的にみて完全に誤っていることを明らかにするため、調査、実験を重ね、新証拠に関する専門家からの意見書、新たな開栓実験報告書、調査報告書などを最高裁に提出するなどの活動を行ってきた。

      異議審決定の特徴は、科学的な照明を伴う新証拠を、非科学的な独断によって排斥する一方、捜査段階の自白を過度に評価し、有罪認定の主要な根拠としている点にある。そこで、弁護団は、新証拠の明白性に関する徹底した主張、立証と合わせて、異議審決定の自白に関する反論も重視し、浜田、脇中両鑑定人による自白に関する鑑定補充書を提出するなどしてきた。

異議審決定の自白に関する認定には、「重大事犯について特段の強制もなく自白している以上信用性がある」「無実の者があえてうその自白をするには、特別の事情があり、極刑が予想される重大事案についてはより納得できる理由がなければならない」と断定するなど、過去の幾多の冤罪事件で明らかにされた虚偽自白の教訓をまったく没却した、誤った断定を含んでいることから、上記鑑定とあわせ、米国専門家による「法廷意見書」を提出してこれに反駁した。

ここでは、米国専門家の意見書に関して紹介する。

二、法廷意見書の提出

名張弁護団は、2008425日、米国ノースウェスタン大学ロースクール誤判救済センター作成による、「奥西勝氏の自白評価に関する法廷意見書」を最高裁に提出した。

法廷意見書(米国ではアミカス・ブリーフという)とは、高度な争点を含む訴訟につき、第三者である民間の専門家が自発的に「法廷の友」としての役割を担い、専門的知見を裁判所に提出するものである。 米国連邦最高裁などには、重要な事実判断において、多数の法廷意見書が提出され、司法判断の基礎となる有力な見解として活用されている。特に米国のロースクールは、傑出した法学博士・研究者の指導のもとに、多数の法廷意見書を連邦裁判所・州裁判所に提出し、高い評価を獲得している。日本の最高裁に米国専門家による法廷意見書が提出されるのは、今回が初めてである。

本意見書は、米国ノース・ウェスタン・ロー・スクール(イリノイ州シカゴ所在)の誤判救済機関である、誤判救済センター(CWCCenter on WrongfulConvictionshttp://www.law.northwestern.edu/wrongfulconvictions/)によって作成された。同センターは、イリノイ州で多発した死刑冤罪事例の弁護に取り組んで雪冤に導き、イリノイ州の包括的な刑事司法改革を実現するきっかけをつくるのに大きく貢献した専門機関である。

本意見書を作成したのは、虚偽自白の専門家であり、2005年より同センターのリーガル・ディレクターとなった、スティーブン・ドリズィン教授である。同教授は、著名な供述心理の専門家、リチャード・レオと共同で、「DNA時代の虚偽自白の問題」(ノース・カロライナ・ロー・レビュー, 82 N.C.L.Rev. 891(2004))を発表した。この研究は、全米で、後に完全な無実が証明された事案で、125件もの虚偽自白事例が存在することを明らかにし、その詳細な分析を行ったものである。

米国では近年、DNA鑑定の普及等の影響で、120人以上の死刑囚が無実であると判明して、死刑台から生還し、相次ぐ冤罪が社会問題化している。そして少なくない冤罪事件で、虚偽自白がその要因であることが知られ、刑事司法改革が模索されている。ドリズィン教授らの研究はこのように、相次いで発覚した冤罪事件にみる虚偽自白の実態を客観的に示した、全米史上最大規模の実証的研究である

弁護団は、上記研究に注目して、異議審決定の自白・虚偽供述に関する判断につき、米国の実証的研究に照らした意見を求めた。

三、125の虚偽自白

   上記125件の米国の虚偽自白事例の研究は、従前の無罪事例での自白研究と異なり、犯行が物理的に不可能、DNA鑑定で真犯人が明らかになったなど、「完全に」無実が「証明された」事例に絞った自白研究である。そうした虚偽自白が米国で125件も存在する、ということ自体が注目に値するが、そのほとんどは、有形力の行使等ではなく、捜査官の心理的な取調べの技術により引き出されたという。

さらに注目すべきは、125件の立証された虚偽自白の実態である。

1   125件のうち、81%は、殺人事件に関するものであった。すなわち虚偽自白の多くは重大事件についてなされていた。

2   125件の被疑者が虚偽自白に至るまでの平均的取調べ時間は16.3時間であり、12時間以内に自白した者が50%12時間以上24時間以内に自白した者が39%24時間以上48時間以内に自白した者が7%であった。

3  虚偽自白を行った者のうち、65% は、18歳から40歳までの年齢であり、

精神遅滞等のない正常な判断を有する者がその大半であった。

4   虚偽自白を行い、公判審理を選択した者のうち、81%が有罪判決を下されてお

り、司法は、虚偽自白に依存し、誤判を生みやすいことが判明した。

以上は研究の骨子に過ぎないが、とくに1-3は、裁判所がこれまで信じてきた、無実の人間はよほどのことがない限り重大犯罪について自白をしない、という「神話」が事実に反することを明らかにした。

四 法廷意見書が明らかにした、異議審決定の誤り

  法廷意見書は、上記の実証的研究に照らし、動かぬ事実をもとに、異議審決定の

誤りを明らかにしている。

1 まず、意見書は、米国の125の虚偽自白事例のうち81%が、極刑の予想される殺人事件に関する自白であった、という事実をもとに、およそ人が死刑を科せられる可能性がある重大犯罪について、特段の強制もないのに虚偽の自白をするはずがない」という異議審決定の確信が誤っている、と指摘した。

2  次に、法廷意見書は、請求人の自白が5日間の連日、朝から晩までの取調べ(

計約49時間)の末になされ、自白した日は、深夜一時過ぎまで、16時間以上に及ん

だ、という事実に着目する。異議審決定は、本件の任意性は明らかで、特段の強制もないと判断したが、意見書は、125件の虚偽自白事例で、89%24時間以内に自白しており、虚偽自白に至る取調べ時間の平均が約16時間であることを紹介し、奥西氏の自白に至る取調べは全米平均をはるかに上回る、とした。意見書は、本件における取調べの長さが、虚偽自白の危険性を誘発するに足るものであると警告している。

3  法廷意見書はまた、米国でも虚偽自白事例の多くで裁判所は、自白の信用性

を肯定する幾多の誤りをおかし、その理由として、「犯人しか知りえない詳細な犯罪事

実を語っている」ということが挙げられてきたことを数々の事例で紹介し、犯人しか知り

えないと思われた事実が捜査官によってもたらされ、誘導されてきたことを示唆する。

意見書は、取調べの全過程記録されていない限り,取調官が自白をいかにして獲得したのかを知ることは不可能であり、詳細な事実が含まれていることを理由に自白の信用性を肯定すべきではない、と警告する。これは、異議審決定は、請求人の初回の自白調書が短時間で作成されたのに詳細で矛盾がない、ということを強調して信用性を肯定したことを強く批判するものである。

4 さらに、意見書は、特に警察の圧力が証明されていない事件でも人は様々な理由から虚偽自白をしてきたことを論証する。飛行家のリンドバーグ氏の息子の誘拐事件の捜査過程で200人以上の者が自白をしたこと、125の事例では、「自分は無実だから有罪判決は受けないだろう」と考えて自白したり、不貞の発覚から免れたい、子どもの親権を奪われたくないなどの理由で自白に至った例があることを紹介する。これは極刑が予想される事案では、虚偽の自白をする「特別の事情」「より納得できる理由」がなければならないとする異議審決定の独断に根拠がないことを示している。

5  異議審決定は、奥西氏が自分の妻が犯人である旨の虚偽供述をしたことを有罪認定において重視している。これに対し、法廷意見書は、米国の事例で無実の者が取調べにおいて追及され、第三者を犯人だとする虚偽供述を行い、その後に自白させられ、結果的に無実と証明されている例が事実として存在することを挙げ、こうした実例に照らせば、妻に責任を転嫁する供述をしたことが奥西勝氏の有罪を示す強力な証拠とはいえない、と主張する。

6 最後に法廷意見書は、奥西氏が、妻と愛人を同時に失った直後という状況下で長時間の取調べを受けて自白した、という状況の危険性を指摘する。意見書は、米国では、近親者を殺人事件で失った者が、その近親者の殺害について自白をさせられるケースが少なくないこと、として8つの冤罪事例を詳細に紹介、「これらの人たちが、愛する者-妻、母親と父親、姉、ボーイフレンド-の殺人について、ショックと悲しみの中で、そして全員が長い取調べの後で、自白した。これらの事件から得られる教訓は明らかである。そのような攻撃されやすい状況で被疑者が取調べを受けたとき、彼らの心理を操ることは極めて容易でありうる。その自白は非常に注意深く吟味されなければならない」と警告した。

以上の論点の検討を踏まえ、意見書は、異議審決定の誤りを明らかにし、奥西氏の自白の信用性に重大な疑いがある、として再審開始を求めた。同意見書は異議審決定の自白に関する判断が経験則に反することを明らかにしたものである。

弁護団では、意見書とあわせて、上記125件の実証的研究に関する論文を最高裁に提出した。さらに、この研究の重要性と普遍性に鑑み、ドリズィン教授の招聘・講演を企画し、実証的研究と法廷意見書の出版を予定している。

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